序章

2/3

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 それは、(いく)つも揺れていた。  ぽつりぽつりと浮かび上がり、時には激しく、時には(はかな)げに、青く燃えながら冥がりの地で揺れていた。  ――逃げなければ。  その光景に(りつ)(ぜん)し、少年は必死に駆けた。  周りに光はなく、ただ青く燃える(おに)()が、彼の(きよう)(かん)にまで冥がりを広げるようで、たまらず彼は逃げた。  ――逃げなければ。早く。  はたして自分は、本当に前に進んでいるのか。  走っても走っても、先には何も見えない。  ――無駄ダ。お前ハ、コチラ側ノ存在。(かわ)リニ、ソノ(からだ)()()セ。  鬼火は幾つも燃えて、彼の行く手を(はば)む。  その()(きゆう)に、彼は絶望感に(さいな)まれる。  ――ああ、僕はこのまま()ちてしまうのか。  ――せいめい。  誰かの声がして、少年は顔を上げた。人の手がそこにあった。  今この手を取らなければきっと後悔する。    少年は(わら)にもすがる思いで、その手をしっかりと握った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加