第一話 すまじきものは宮仕え

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「あまり――、いい話ではないな……」  話を聞いていた晴明は、(めい)(もく)した。  蛙の化生に寄れば、一月前(ひとつきまえ)までは蛟など見かけなかったらしい。縄張りに侵入され、人を食い始めた蛟を何とか退治してくれという依頼に、晴明は思い(わずら)う。  そもそも、依頼してきたのは化生だ。  人間に依頼される事があっても、人以外のモノから依頼されることはなかった。  まだ(あさ)(がた)だというのに、清々しい気分を台無しにされて、晴明は(じゆう)(めん)朱雀門(すざくもん)を潜った。  陰陽寮に(しゆつ)()してきた晴明の顔に、彼の()(しよう)()()(ただ)(ゆき)は怪訝な表情を浮かべる。  出会った頃は若かったその顔は今や深い(しわ)が刻まれ、(とう)(はつ)(あご)(ひげ)はすっかり白く染まっている。この数十年、(じつ)()(ます)()より師といるほうが長い晴明は、忠行には(きん)()の念を抱いている。冥がりに沈まずにいられるのは、忠行のお(かげ)かも知れない。  (はん)(よう)であるがゆえに、人の世で生きづらくなっていた少年時代。人の目と言葉から逃げ、冥がりに逃げ込んだとき――、晴明は見た。  化生となったもう一人の自分を――。  冥がりに近い自分は、(さい)()はどうなるのだろう。  人として(こん)(じよう)を終えればいいが、人に(たた)るモノとなれば骨にもならない。砂のように散り、消滅するのみ。そうなれば、(はな)も咲かない。  亡くなった時ここにいるのだと、導いてくれる()(びと)(ばな)。またの名を〝(とむら)(ばな)〟という。  晴明に依頼してきた、蛙の化生も思ったという。  自分が死んだら、華は咲くのかと。ここに骨があるのだと報せてくれるのかと。   「えらく難しそうな顔じゃのう? 晴明」  ()(しよう)する師に、晴明は自身の首の後ろを撫でた。 「門の前で蛙と立ち話をしまして……」 「蛙?」  目を(しばたた)かせる忠行に、晴明も苦笑した。  (あやかし)が人を襲っているのなら、すぐに対処すべきだが、他にやることは(さん)(せき)している。  だが忠行から聞かされる話の内容も、また(なん)(だい)であった。
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