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ナンバーワンの律は、幹部でもなくその他でもなかった。
店での肩書きは、executive player。あくまでも肩書きだ。幹部と呼ばれる役職ではない。
幹部と同程度の売り上げをたたき出すことだけが条件だ。雑用はすべて免除。遅刻や欠勤、イベントの不参加など、わがままが許される特別な存在だった。
当然、このあと店で律がすることはなにもない。席を抜け、そのまま店の出入口へと向かう。レジカウンターの手前にさしかかったとき、背後から店長の声が聞こえた。
「千隼も最近がんばってるな」
足を止め、振り返る。
売り上げ四位だった副主任の千隼が、店長と一緒にフロアを横切っていた。
「アフターNGでランカー入れるのは律と千隼くらいじゃないか」
「ありがたいことです。ウチに来てくれるお客さんと相性がいいんでしょうね」
「何言ってんだ。おまえの実力だよ。律とは違って幹部の仕事もちゃんとやってくれるし、いつも助かってんだ」
千隼は、ホストにしては落ち着いた容姿をしていた。清潔感のあるサラリーマンといった印象だ。
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