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律とは違い黒髪で、アクセサリーはブランド物の時計のみ。よく言えば純朴、悪く言えば地味。
厨房に向かう千隼と目が合ったのを、即座にそらす。背を向け、店を出た。
ホールを抜け、地下から地上に、階段をのぼっていく。目の前に広がる繁華街のネオンはまだ光っており、毒々しい。
「あ、おにーさん、ひとり~? 一緒に遊ぼうよ~」
キレイに着飾った女性が、酔っぱらいながら声をかけてくる。律は無視して先を急いだ。
「お兄さんちょっといいですか~?」
律に話しかけてくるのは女性だけではない。
「仕事帰り? ホストやってるよね? どこのお店? 稼げてる? もしかして幹部だったりする?」
律は見向きもせず立ち去っていく。
枕もせず、アフターもせず、売り上げ指名数ともに毎回トップ。それなのに、顔を出して売り出すことはしていない。店の宣伝にもかかわらない。
トッププレイヤーとして律の名前を知る者は多くても、顔を知る者は決して多くはなかった。
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