辞める理由、働く理由

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「ありがとう優希くん」  デスクを離れ、引き戸が開きっぱなしの洋室へ向かう。手前で立ち止まり、中に声を放った。 「社長も飲みますよね?」  洋室のソファに座るのは律だ。ローテーブルにノートパソコンを置き、前のめりに画面を見つめている。  歓楽街が誇るナンバーワンホストは、デリヘル会社の社長でもあった。アフターも枕も、しないのではなくできないのだ。 「ん、ありがと。新人さんのプロフィールちょっと変えるから確認しといて」 「はーい」  優希が離れていくと、律はキーボードをたたき始める。  律が見すえる画面に映るのは、メイコが面接した新人女性の紹介ページだ。  優希が作った仮のプロフィール内容に、男性が喜びそうな紹介文を付け加え、保存する。  次に、プロフィール画像を全体で表示させた。待機部屋でスタッフが撮ったものだ。  イスに座って足をななめに流すポージング。いかにも業界に入りたての新人、といった印象を与えている。顔にモザイクがかけられても、真面目で硬い雰囲気を隠せていない。  彼女には後日、プロのカメラマンによる撮影が控えている。どのようなポージングが適切か、どう修正してもらうか、律は真剣に考えていた。 「そういえば聞きました?」
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