辞める理由、働く理由

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「でも、メンタルぶっこわれてまで他人のために体を売るのは、理解できないかも。いわゆるホス狂、とか」 「まあ、ねえ……」  メイコの視線が気まずそうに洋室へ向く。  とうの律は、二人の会話を聞き流しながら画面を見つめていた。確認作業を終えるとノートパソコンを閉じ、カップを手に取る。  律のことを気にするそぶりも見せない優希は、平然と続けた。 「まあ、うちにはそういう子、いないですけどね。アイドルとか歌劇団ファンの子はいるけど。ホストとかメン地下にハマってる子はとらないようにしてるでしょ?」 「うん。そういう方針だからね。例外もあるけど」  メイコは薄い笑みを浮かべ、湯気の立つ紅茶を見下ろす。 「稼いだお金は、自分の幸せに使ってほしいっていうのがウチのモットーだから。誰かのために風俗で働くことが悪いわけじゃないけど……結局、人の気持ちは、お金では買えないからさ」 「……ですね」  リビングはしんみりとした空気に満たされる。洋室も静かだ。  律は湯気のたつ紅茶に、おそるおそる口をつけ、すする。ほどよく熱い紅茶は、甘さのないシンプルな味だ。酒にまみれた体によく染みた。  律にとっての適温ではないので、すぐにテーブルに戻す。熱いのは、好みではない。
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