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あくまでもExecutive Player
この日、律は飲みすぎた。店が閉まるころにはふらふらで、トイレの個室に閉じこもる。掃除を始めようとする新人ホストをドアの前で待たせていた。
えずく音を長いこと響かせながら、満足するまで吐き出した。ハンカチで口元を拭きながら個室を出る。
「……ごめん。掃除はじめていいよ」
言葉を発する余裕もない。青白い顔で、トイレをあとにした。
胃に不快感を抱え、出入り口に向かう。レジカウンターにさしかったとき、呼び止められた。
「律!」
ミーティングをしているはずの店長が、紙コップを持って追って来た。
整った顔だが、疲労と加齢を隠そうとしていない。眉間のしわとつり上がった目が、厳しい印象を際立たせている。
「なに?」
「飲んどけよ。脱水にならないように」
「あー……」
コップの中身は白湯だ。湯気が立っている。
律がいぶかしげに受け取ると、店長はついてくるようあごをしゃくった。背を向けて、フロアに戻っていく。
首をかしげながら立ち尽くす律に、振り向いた店長が挑発するような手の動きでせかした。
「なに? おれ、なんかやらかした?」
「いいから、はやく」
わけもわからず、しぶしぶ店長についていった。
店長はひと気のない卓席に入り、店腰を下ろす。その正面に律が座った。手に持つ白湯を見下ろす律に、店長は前のめりになる。
「おまえに、ちょっと頼みたいことがあんだけど」
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