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脱サラして遅いホストデビューを迎えた千隼を、当初はあまり期待していなかった。簡単に稼げそうだと飛び込んできたくらいにしか思えなかったからだ。
ところがどうだ。今ではすっかりナンバー入りの常連だ。ここまで来るのに相当努力したに違いない。
「そういうやつにいきなり限界が来て辞められるのは困るんだよ。前につとめてたところもそれで辞めてるっぽいし」
「だから、俺に千隼さんのメンタルケアをやってほしいって?」
律は盛大にため息をついた。
「めんどくさい。断る」
律の反応は想定内だったようで、店長の表情が特に変わることはない。
「その分給料は上乗せするって言ってもか」
「俺には関係ないことだからな」
湯気がのぼらなくなった白湯を飲み進める。不思議なもので、胃の不快感が先ほどよりもおさまっているような気がした。
「だいたい、そういうのはヒラのホストに頼むことじゃねえだろ」
「おまえだから頼んでんだよ。おまえも経営者やってんだろ。 もし店の女の子たちが悩んでたら、相談に乗ってあげるんじゃないのか? それと同じだよ」
「全然ちげえよ。それとこれとは話が別だ。ここでの俺はあくまで、個人事業主、だからな」
千隼がなにを抱えて悩んでいようと、律には関係ないことだ。律が千隼に目をかける義理もない。
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