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店長は小さく舌打ちを打つ。
「なんかあったときにフォローしてくれたらいい。常に、とは言わねえ。おまえが気になったときだけでいいから」
「俺がそんなに暇に見えんのか。自分のことで精いっぱいだっつの」
律はばっさりと切り捨て、生ぬるくなってきた白湯を飲み干す。胃の不快感が軽減するのを実感しながら、大きく息をついた。
「まあ、確かに? 千隼さんは真面目だし、他のホストにいないタイプだし、店長がかわいがるのもわかる。でも、店長が特定のホストに肩入れすんのはヒイキだろ。誰だろうと多かれ少なかれ悩むもんだし」
カラになった紙コップを卓席に置く。律は小さくゲップした。
「そういうのは、俺じゃなくて他の役職付きにさせとけよ。てか、それが役職の仕事だろ。俺はそういう、めんどくさいことやりたくねえから役職蹴ってんだよ」
店長はあきれたようにため息をつくが、律の言葉に食い下がろうとはしなかった。
「話はそれだけ?」
「ああ」
「じゃあもう帰る。また明日」
紙コップをそのままに、律は立ち上がる。
千隼がいる卓席に、視線を向けた。
まだミーティングは続いており、声をかけられるような雰囲気ではない。律はいつものように、なにもすることなく店を出ていく。
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