社長の立場では惜しまず

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社長の立場では惜しまず

 都心から少し離れた、高級住宅街のかたすみ。とにかく静かで、治安がいい。  温かみのあるアイボリーのマンションは目立たない。夜になれば照明がついて輝かしくなるものの、それは他のマンションも一緒だ。  マンションの前で停まったタクシーから、律が降りた。静かに走り去るタクシーを背に、カギを差し込んでエントランスに入る。  エレベーターに向かうと、ちょうどドアが開いていた。男女二人が乗っており、律が乗るのを待っている。  乗り込むと、男性がボタンを押して扉を閉めた。律を見て、へらりと笑う。 「お疲れさまで~す」 「ん、お疲れ」  Platinum(プラチナム)系列のドライバー、ミズキだ。  黒スーツに白手袋で、年齢は律とそう変わらない。前髪に走る金色メッシュが黒髪に映えている。  ミズキの視線が、律の後ろにひかえていた女性に移った。 「この人、ウチの社長なんです」 「あ、お疲れさまです」  律が顔を向けると、女性は礼儀正しく頭を下げた。控えめで上品な顔立ちをしており、律やミズキより年上だ。白いブラウスに黒いロングスカートが、しっかりとした印象を引き立たせていた。  その振る舞いと雰囲気に、律は新人女性だと気付く。 「もしかして、カナさんですか?」  仮プロフィールに載せられていた写真のとおり、スレンダーで真面目そうな女性だ。  カナがうなずくと、律は女性にしか見せない営業スマイルを浮かべる。
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