10人が本棚に入れています
本棚に追加
社長の立場では惜しまず
都心から少し離れた、高級住宅街のかたすみ。とにかく静かで、治安がいい。
温かみのあるアイボリーのマンションは目立たない。夜になれば照明がついて輝かしくなるものの、それは他のマンションも一緒だ。
マンションの前で停まったタクシーから、律が降りた。静かに走り去るタクシーを背に、カギを差し込んでエントランスに入る。
エレベーターに向かうと、ちょうどドアが開いていた。男女二人が乗っており、律が乗るのを待っている。
乗り込むと、男性がボタンを押して扉を閉めた。律を見て、へらりと笑う。
「お疲れさまで~す」
「ん、お疲れ」
Platinum系列のドライバー、ミズキだ。
黒スーツに白手袋で、年齢は律とそう変わらない。前髪に走る金色メッシュが黒髪に映えている。
ミズキの視線が、律の後ろにひかえていた女性に移った。
「この人、ウチの社長なんです」
「あ、お疲れさまです」
律が顔を向けると、女性は礼儀正しく頭を下げた。控えめで上品な顔立ちをしており、律やミズキより年上だ。白いブラウスに黒いロングスカートが、しっかりとした印象を引き立たせていた。
その振る舞いと雰囲気に、律は新人女性だと気付く。
「もしかして、カナさんですか?」
仮プロフィールに載せられていた写真のとおり、スレンダーで真面目そうな女性だ。
カナがうなずくと、律は女性にしか見せない営業スマイルを浮かべる。
最初のコメントを投稿しよう!