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「未経験なんですよね? 不安なことはありませんか? スタッフは頼りになってます?」
「あ、はい。大丈夫です」
「なにかあれば言ってくださいね、気兼ねせず」
カナの反応はぎこちない。硬い笑みを浮かべて会釈する。金髪で若い男が社長だと紹介されれば、警戒するのも当然だ。
エレベーターは事務所のある階につく。降りた直後、ミズキがカナに声をかけた。
「じゃあ、カナさん。待機はこのフロアの一番奥なんで」
「あ、はい……」
言われたとおり、律とミズキに背を向けて、奥に向かっていく。
待機室に入ったのを確認した律は、声を潜めて尋ねた。
「カナさん、どんな感じ?」
「え?」
ミズキも同じくらいの声量で返す。
「あー……静かな人ですよ。愚痴一つ言わないですね。他の女の子ともしゃべらないんじゃないかな」
律は、先ほどのカナを思い出しながら上を向く。そのとなりで、ミズキはあっけらかんと続けた。
「未経験者だし、まだ慣れてないからぎこちない部分もあるのが普通ですよ。心配な部分もありますけど、こればかりはようす見していくしかないすね」
「……だね」
律はミズキと一緒に、エレベーターに一番近い角部屋へと入っていった。
†
事務所のデスクに座る律は、ノートパソコンの画面を見つめていた。
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