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頼まれたからやるわけじゃない
Aquariusの営業終わり、律はいつものように少し吐き、出入り口に向かう。フロアを歩く中、視界に入ったのは、卓席に座る千隼の後頭部だ。一人で、必死にスマホをタップしていた。
律は辺りを見渡す。店長が律の行動を見ていたらめんどうだ。頼みごとを聞いてくれたと思われても困る。
今のところ、店長は見当たらない。厨房で酒棚の整理でもしているのだろう。
それなら、と音を立てず、ゆっくりと千隼に近づいていく。背後から、スマホをのぞきこんだ。
スマホの画面にうつっているのは、メッセージアプリのトーク画面だ。相手のアイコンは女性の自撮りだった。相手からのメッセージが続いている。
『ええ? 先週のフレンチたいしたことなかったよ。店も古いしさ』
『今度はアフタヌーンティーに行きたいな~、ホテルの二階のやつ』
『絶対絶対つれてってね!』
『そこじゃなきゃ嫌だから! ちゃんと予約しといてね』
相手からのメッセージに、千隼は真面目に返している。
律は視線をそらし、しばらくためらいながらも、声をかけた。
「それ、客ですか?」
「うわあっ」
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