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雨に打たれて
「黒河さんって、普段はどこで遊んでるんですか?」
突然話し掛けられ、黒河は戸惑った。
ここは『RONダンススタジオ』というダンス教室で、今は体験レッスンが終り、生徒たちが帰り支度に移っている最中だ。
話し掛けられた小柄な男性は黒河輪舞という名前で……つまり、この教室を運営する黒河彩未の息子であり、若輩ながら生意気にも講師をしている青年だった。
今話しかけて来た人物は、佐藤省吾という体験レッスンの生徒だ。
教え子とはいえ、黒河より五つ年上の男性である。
ついでに言うと、黒河にとってちょっと気になるイケメンだったりする。
「ええと……そういう佐藤さんは、休日はどこで遊んでいるんですか? 普段はお勤めで忙しいでしょうし。やっぱり近い場所ですか?」
こういう場合は、そのままのセリフを相手に返すことがベストであろう。
そう思い、黒河はにこやかに訊き返したのだが。
「いや、俺の質問に先に応えて下さいよ」
(おやおや、正論で返されてしまったよ)
参ったな……と思い、それでも困惑した様子は顔に出さないよう笑顔をキープしながら、黒河は当たり障りのない答えを口にした。
「そうですね。僕は根っからのインドア派だから、休日は大抵読書かネトフリで映画鑑賞ですかね」
「え? 退屈でしょう?」
「そんな事はないですよ。僕は、一カ所でじっくりと楽しむような娯楽が好きだから。それに身体を動かすのは、皆さんのダンスを見るだけで充分だし」
これは本当の事だ。
(手取り足取りダンスを教えるだけでクタクタに疲れるのに、この上、休日に外で何かやるなんて冗談じゃない)
そんな事を思っていたら、佐藤省吾は即座に訊き返して来た。
「じゃあ、俺とキャンプ行きませんか?」
「キャンプ!? 虫とか嫌だし、準備や片付けが面倒臭いからちょっと……」
「え~。じゃあ、波乗り――は、ダメか」
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