Ⅱ.森野

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Ⅱ.森野

 私は『久間(きゅうま)ミトの、お天気ミトく?』の助けを得て、ビニール傘を持って家を出た。 『今日はお昼から雨が降りそうです! 皆さん、傘、必携です!』  やかましいと思いつつ、あんなコーナーでも為になるのだから困る。  不貞腐れながらいつものバスに乗り込む。今の天気からすれば似つかわしくない傘を持つ人が多く見られた。他の天気予報でも雨予報だったのか、それとも「国民の妹」の力なのか。こればっかりは分からない。  私が高校の最寄り駅で降りると、長い登り坂になっている通学路には、既に我が校の制服がチラホラ見受けられた。  私は知り合いはいないかと坂上に向けて目を走らせた。どうやら息を切らせて追いかける程、仲の良い友人はいないようだ。  ……ただ、知り合いはいた。少し前方を歩いていた。  森野だ。1年A組の森野がいる。  私はC組だし、中学も同じという訳では無い。本来であれば知り合いですらないはずなのだが、先週、ちょっとした出来事で「知り合い」にした。  同じクラスの友人に草壁(くさかべ)という女子がいる。高1にしては少々化粧が濃い気もするが、裏表のない明るいキャラクターで、男女とも別け隔てなく接する気持ちの良い子だ。モデル体型のキツネ顔で男ウケも良いと思う。  そんな草壁とC組で級友となった私は、「くさかべ」「くま」という出席番号順が前後であった縁もあり、すぐに意気投合した。そして現在に至るまで、学校生活においてはほとんど行動を共にしている。  そして先週、体育の授業からの帰り際、森野との出会いがあった。  いつものように草壁と教室に向けて歩いていると、突然草壁が前方の男子に向かって大きく手を振り始めたのだ。 「おおーい! 森野じゃん! 久しぶり―!」
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