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Ⅶ.森野追跡③
訳も分からず手を引かれて走る私は混乱していた。
ほとんど話したこともない男子に、手を掴まれて走っているのだ。園児でも小学生でもない、高校生の男女がだ。
私が頬を染めていると、背後から物々しい音が聞こえてきた。
「カア! カア! カア!」
先程のカラスと思しき鳴き声だったが、その雰囲気は全く異なる。言葉の通じない生物同士でも、敵対しているということが明確に伝わった。
「うわ、来た来た。久間さん、こっちこっち」
森野が手を引きながら促した先は、うちの高校の裏側だった。どうやら少し迂回する形で高校へとたどり着いていたらしい。
私たちはひとけのない裏門から急ぎ学校へと入ると、旧校舎の玄関へと駆け込んだ。
そして、今は使われていない古びた下駄箱が並んだ玄関に敷き詰められた簀子へと、倒れ込むように腰を下ろした。
はあ、はあ、はあ、はあ……。
静かな旧校舎に、私と森野の呼吸音だけがこだましていた。
先に息が整ったのか、森野が口を開く。
「……久間さん、なんであんなところに?」
「いや、別に……」
あなたを追いかけていました、なんて言えない。
私は斜め下に目線を落としながら口を尖らせた。
「森野……こそ、フタ拾ったり、カラスにあげたり、変なこと、してなかった?」
これじゃあ「尾行してました」と言っているようなものだ。我ながら気持ち悪いなと思いながらも、そう発してしまった。しかし森野はそんなこと気にした様子もなく、あっけらかんと答えた。
「ああ……あれは、囮だから」
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