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Ⅸ.くまさんのワケ
「……森野を見掛けて、追いかけてた」
「え? 俺を? なんでまた」
森野も鼻白んだ様子だった。私は続けた。
「訊きたいことがあったの。森野、久間ミトって知ってる?」
「久間ミトって……国民の妹でしょ」
「知ってたか……じゃあ何で、私のこと、久間って分かったの?」
私が真摯にそう訊くのを見ると、森野は口角を上げた。
「……もしかして、それを訊くために追いかけて来たの?」
「うん、気になってたんだもん」
「フフ、久間さんって、面白いね」
そう言って、森野は笑った。
いやお前が言うな。通学路でカラスにフタという賄賂を渡して、決死の覚悟でビニール傘を取っていた、そんな謎の行動をしていた、お前が笑うな。
私がぶすっとしているのを知ってか知らずか、ひとしきり笑い終えた森野は、ゆっくりと話し始めた。
「はじめに会った時、草壁さんが言っていたから」
「草壁が? 私の名前を? 言ってないでしょ」
森野は頭を振った。
「いや、名前じゃなくてさ、『最初の席が私の後ろで』って草壁さんが言っていたでしょ」
「それが、なに?」
「俺も名前を見て『きゅうま』がよぎったけど、それだったら『くさかべ』の前の席にいるはずでしょ、出席番号順的にさ。そんで『ひさま』とかだったら、もっと離れていると思う。だから『くま』だなって思ったんだ」
なにそれ。
コイツ、こう見えて結構鋭いんだな。言われてみれば確かに。
「――実際、あってたでしょ? くまさん」
「……うん」
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