新学期

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新学期

「1年! ほらもっと腰を落とす!  スクワットになってないよー!」  私は体育館で全体を見ながら、激を飛ばした。  4月から5月にかけては、基礎練習だ。  新1年生の基礎体力作りと、2、3年生の体力確認を兼ねて、合同で行うことにした。  1年生を2、3年生と一緒に扱うなんて、あの部長はスパルタ過ぎるーー陰でそんなことを言われているのは知っていた。  だけど、これが私の考えたやり方だ。1年生に体力の差をみせつけて、奮起させるのが狙いだ。 「前の部長は優しかったなあー。  今頃になって身に沁みるよー。」  休憩時に、副部長が笑いながら私の肩に倒れ込んできた。 「なにそれ。  あんた別にキツくなんかないはずでしょう。」 「そうでもないよ。  1年が思いのほか頑張るから、手ぇ抜けなくて。」 「今まで手ぇ抜いてたの!?」 「うわっ、口が滑った。」  副部長は軽やかな足どりで私から離れた。 「疲れててもその足の動き。  さすがだね。」 「まあね。」  副部長は水筒の水を飲んで、床に転がった。  そのまま私を見上げてきた。 「部長。」 「なに?」 「……カッコよくなったね。  短髪にしたからとかじゃなくて。  見上げるような気持ちです。」 「なにそれ。  見上げながら見上げるような気持ちって、それ、もしかしてギャグ?」 「ギャグをギャグかと聞き返すのはナイわー。」  副部長はウケていた。その笑い声のせいか、1年生たちもリラックスしたように談笑し始めた。まあ、いいか。休憩中くらいはね。  そして約束の15分が経ったとき、私は号令をかけた。 「はい、休憩終了!  外に出て学校の周りをランニング5周!!」  うはー!だの、キッツー!だのと小さな悲鳴が上がったが、私は先頭を切って外に出た。  空が晴れ渡っていた。  この空はどこまでも広がっていて。  そう、先輩のいる国にもつながっているんだ。  先輩。  私、自分のやり方で頑張ってます。  先輩がおっしゃったとおりに……。 「あれ?  それじゃまだ先輩を追いかけたまま?」  ふと疑問がよぎったが、すぐに我に返って後ろをふり向いた。  全員、ちゃんと後について走っていた。  先輩……私、頑張ります!  一定のペースを守りながら、私は部員たちを先導して走った。
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