卒業の日

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卒業の日

 部長……いや、元部長は桜の下で言った。 「あとのこと、よろしくね!」 「先輩……。  私、本当に先輩なしで、部長が務まるでしょうか。」  先ほど卒業式を済ませた先輩は、にっこりした。  ああ、この笑顔に何度メンタルを救われてきたことか。  夏休み明けに部長を引き継いでからも、先輩がまだ校内にいるのをいいことに、相談しにいってばかりいた。  その先輩が、今日を境に、本当に学校を去る。  先輩の進学先は海外だから、そうそう電話なんかできない。通話料が怖すぎる。  だから、私も一度は覚悟を決めた。  これからは、自分の考えを前面に出していく。  だけど、先輩を前にしたら、やっぱり訊いてしまった。 「私、部長の器でしょうか……。」  先輩はふふふと笑って、私の髪に手を添えた。 「唯夏(ゆいか)。もう、私のあとを追いかけちゃだめ。  答えが欲しいときは、自分を追いかけるの。」 「自分を……」 「そうよ。  自分のしっぽを追いかけてくるくる回る、子犬ちゃんみたいにね。」 「もー! せんぱぁい!!」  先輩はまた笑って、そして、私をエアでハグした。 「あなたは私のかわいい後輩。  でも、私にも私の人生があるわ。  冷たいようだけど、わかってね。」  先輩は単身で留学するのだ。  私より年上だといっても、まだ十代だ。  自分のことでいっぱいいっぱいになるに決まっている。 「冷たいなんて、そんなこと!  ぜんぜん思いません!」  先輩はたくさんの思い出と言葉を残してくれた。  それは私の糧となるはずだ。 「安心した。  個人的にはそれがいちばん気がかりだったの。」  先輩は私の頭をぽんぽんしたあと、ゆっくり私から離れて、「じゃあね。」と、卒業証書の入った筒を振って校門を出ていった。ほどいて揺れた長い髪が私の目の中でつややかに光って、滲んだ。
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