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それは突然やって来た。
彼の奥さんだ。
僕のところへツカツカとやってきて、
「こんにちは。」と笑った。
結婚式以来だ。
あのときと変わらずきれいな人だ。
「どのようなご用件でしょうか?」
「妹がここで結婚式したいって言うものだから。私もここで式をあげたのよ三年前。」
「覚えてます。あの時、僕も、」
「いたわよね。私も覚えてる。」
一瞬怖い顔をした。
この人、知ってるんじゃないか?
「ねぇ、今度デートでもしない?」
「え?」
「デート。これ私の連絡先。連絡ちょうだいね。」
奥さんはそう言うと去っていった。
、、、ん?
あれ?
ナンパされた?
このことを彼に言おうか迷ったが、結局。
「ナンパ?」
「デートしようって。連絡先渡されたんだけど。」
「したの?」
「しないよ。てか、大丈夫なの?」
「さぁ。実は一週間前から海外行っててさ奥さん。」
「海外?」
「誰といってるのか、どこに行ってんのかなにも知らない。」
だから電話してくれたのか。
「離婚したら?もう」
「親に離婚原因聞かれて、実はゲイで愛人がいますって言うの?」
「そこは上手いこと言えばいいんじゃない?」
「離婚してほしい?」
「べつに。今の関係に満足してるから。」
「なにそれ。」
「奥さんにばれたらいつでも別れるから。」
「そんなもんなの?」
「そんなもんだよ。」
と自分に言い聞かせている。
強がっていないと崩れ落ちてしまう。
そんなもんなの?とか聞くけど、あんたの方がそんなもんだと思ってるでしょ。
僕じゃなくてもよかったんだろうから。
それから一ヶ月後、奥さんが男を連れて歩いてるのを見た。
男はロマンスグレーな紳士。
僕はこっそり跡をつけた。
二人はお洒落なレストランで食事をした後、ホテルに入っていった。
浮気されてるじゃないか。
ということはお互い様、、、ではないか。
もしかしたら奥さんは彼が子供を作るのに前向きじゃないことが原因で浮気してるのかもしれない。
だとしたら完全に彼の方が悪い。
僕はなんでこんな場面に遭遇してしまったのか。
「ロマンスグレーねぇ。」
「驚かないの?」
彼は飄々としている。
「だって俺なにも知らないしね。」
「奥さんのこと?」
「そう。お見合いしてすぐにプロポーズされたから。」
「されたの?」
「なんかね、どうしても結婚したかったみたいで。」
「あのロマンスグレーの人がなんか関係してるんじゃない?」
「いい男だった?」
「まぁ、素敵な人だったよ。」
僕がそう言うと彼は怪訝な顔した。
「やっぱ奥さんの浮気相手って気になるもんなんだ。」
「全然。それよりお前が素敵って言ったことが気になる。」
「なに言ってんの?」
ベットでパンイチで。
「俺のこと素敵なんていってくれないでしょ。」
「まぁ、そうだね。」
「俺ばっか好きで嫌になる。」、
、、、ん?
なんだその台詞は。
「あのさ、僕らはあくまで二時間のバカンス仲間であって、」
「そんなの三年も続けてて越えるに決まってるだろ。」
はぁ?
「俺は奥さんと別れてお前と一緒になりたいと思ってるよ。」
「え?ちょっとまって。」
「でもお前はそうじゃないんだろ?」
「何言ってんの?だって僕たちは、」
「ただの遊び?そう思ってんのはとっくにお前だけだよ。」
彼はそう言って身支度を整え出ていった。
予想外の展開。
てか、初めての喧嘩?ってやつか
僕は謝るべきなのか?
でも、なにを?
僕が同じ気持ちだと言ったら彼は本当に奥さんと別れるのか。
別れられるのか?
簡単に。
全てを捨てることになるかもしれないのに。
夫婦として三年、同じ時間を過ごしてきて女としては愛せなかったとしても、人間として情が沸いたりしてないのか。
僕と過ごした時間なんてたかが知れてる。
いや、僕はただ自信がないだけなのかもしれない。
僕にそれだけの価値はない。
そう思ってる。
自信なんてあるはずない。
だって、、、僕は。
僕には何もないから。
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