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「というわけで、離婚して、会社も辞めて、俺には今何もない。」 無職の男は三年前、たった一回しか来たことない僕の家を覚えていた。 そして家に上がるなり全てを吐き出した。 妙にスッキリした顔をしてるのが少し腹立つ。 「以上なんだけど?」 「はぁ。」 「怒った?」 「いや、怒ってはない。ただ、なんだろう。この三年間嘘をつき続けてたってことでしょ?」 「それは本当に申し訳ないと思ってる。」 「三年だよ?三年て長いよ?」 「うん。」 「逆にすごいよ。僕一度も疑わなかったし。」 「そう?」 「褒めてはないけどね。」 睨むと怯む。 「謝っても許されるとは思ってないよ?だから言えた義理じゃないのも分かってる。でも俺にはお前が必要なんだよ。」 「なんで?」 「なんでって、そんなの理屈じゃないだろ。」 「ちゃんと理屈こねてよ。」 「こ、こねんのかよ。えーと、じゃあ、お前のその目かな?その目に見つめられると、」 僕は恥ずかしさに耐えれなくなり、彼の唇を塞いで強制終了した。 「もういい。どうせ僕もなんだかんだあなたからは離れられない。ずっと苦しかったよ。好きだよ。」 心の奥に溜めてた思いはほとんど言葉にできなかった。 でも彼には伝わったようだ。 俺のことを抱き締めて、 「俺もずっと苦しかったし、二時間なんかじゃ全然足りなかった。好きだよ、朔。」 と初めて名前を呼ばれた。 こうして僕らの二時間のバケーションは幕を閉じた。 一年後。 僕らは再び結婚式場にいた。 仕事ではなく、友人として招待された。 彼の元嫁とロマンスグレーの結婚式だ。 「一年かけて親父さんを説得したらしい。」 「良かったね。てか、なんでそんなに反対されてたの?」 「あのロマンスグレー、親父さんの同級生なんだと。しかも野球でライバル校のエースだったらしくて。」 「よく許してくれたな。」 「授かり婚らしい。」 「子は鎹か。」 「俺たちも結婚式やる?」 彼は冗談ぽく言ったが。 「ウェディングドレス着れるかな?」 僕はマジだった。 「着れるよ。似合うと思う。」 「じゃあ予約しとくね。」 「おう、頼んだ。」 ブーケは当然のごとく僕の腕の中に飛び込んできた。 そしてサプライズ決行日。 僕は買い物に行こうと車で彼を拉致し、結婚式場に向かった。 わが職場だ。 同僚も先輩も上司も協力してくれ、あれよあれという間に彼はタキシードに僕はウェディングドレスに着替えた。 「よかったー!なんとか入ったね。」 「先輩のお陰です。ダイエットメニューとか色々作っていただいてありがとうございました。」 「いやいや、朔くんの努力の賜物よ。旦那さん、絶対感動するよ。」 旦那さん。 そうか、彼は旦那になるのか。 そう思うと少し気恥ずかしかった。 そして彼は先輩が思ってる以上に感動してほぼ泣いてた。 「めちゃくちゃ綺麗だよ!」 「ありがとう。そっちも馬子にも衣裳って感じで似合ってるよ。」 「馬子にも衣裳は余計だわ。」 「じゃあ、歩きますか。バージンロード。」 「ちゃんとエスコートいたします、お姫様。」 一歩ずつ足を踏み出すごとに彼との三年の月日を思い出した。 出会った日のこと、初めて旅行に行った思い出、どのシーンでも彼は笑っている。 僕は彼の笑顔に救われてた。 男しか愛せないと分かってから、本当は何度も死ぬことを考えた。 親には理解してもらえなかったし、親友からも拒絶された。 誰にも受け入れてもらえないんじゃないか。 そう思ってた。 誰かと愛し合う未来なんて想像できなかった。 今こうしてバージンロードを歩いてるなんて夢のようだ。 そしてみんなが祝福してくれている。 幸せすぎてバチが当たるんじゃないか、とすら思う。 「朔、ありがとうな。」 彼が小声で言った。 「こちらこそありがとう。」 「俺バージンロード二回目だけど、前より断然今の方が緊張してる。」 「汗すごいもんね。」 「絶対幸せにするからな。」 そう言った彼の横顔は凛々しくてカッコよかった。 式が終わって車に乗ると彼が、 「運転変わるよ。連れていきたいとこがあるんだ。」 と言った。 ベタに海とか連れてかれるのかと思ったら彼の実家だった。 「え?まじで?」 「ちゃんと紹介したいんだ。」 「事前に言ってよ!お土産とか用意してないし。」 「そんなのいいんだよ。さぁ、行くぞ。」 そう言って俺の手を引く彼の後ろ姿が頼もしくて惚れそうだった。 この先、何があっても大丈夫。 そう後頭部に書いてる気がした。 「はいはい、旦那様仰せのとおりに。」
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