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4
「というわけで、離婚して、会社も辞めて、俺には今何もない。」
無職の男は三年前、たった一回しか来たことない僕の家を覚えていた。
そして家に上がるなり全てを吐き出した。
妙にスッキリした顔をしてるのが少し腹立つ。
「以上なんだけど?」
「はぁ。」
「怒った?」
「いや、怒ってはない。ただ、なんだろう。この三年間嘘をつき続けてたってことでしょ?」
「それは本当に申し訳ないと思ってる。」
「三年だよ?三年て長いよ?」
「うん。」
「逆にすごいよ。僕一度も疑わなかったし。」
「そう?」
「褒めてはないけどね。」
睨むと怯む。
「謝っても許されるとは思ってないよ?だから言えた義理じゃないのも分かってる。でも俺にはお前が必要なんだよ。」
「なんで?」
「なんでって、そんなの理屈じゃないだろ。」
「ちゃんと理屈こねてよ。」
「こ、こねんのかよ。えーと、じゃあ、お前のその目かな?その目に見つめられると、」
僕は恥ずかしさに耐えれなくなり、彼の唇を塞いで強制終了した。
「もういい。どうせ僕もなんだかんだあなたからは離れられない。ずっと苦しかったよ。好きだよ。」
心の奥に溜めてた思いはほとんど言葉にできなかった。
でも彼には伝わったようだ。
俺のことを抱き締めて、
「俺もずっと苦しかったし、二時間なんかじゃ全然足りなかった。好きだよ、朔。」
と初めて名前を呼ばれた。
こうして僕らの二時間のバケーションは幕を閉じた。
一年後。
僕らは再び結婚式場にいた。
仕事ではなく、友人として招待された。
彼の元嫁とロマンスグレーの結婚式だ。
「一年かけて親父さんを説得したらしい。」
「良かったね。てか、なんでそんなに反対されてたの?」
「あのロマンスグレー、親父さんの同級生なんだと。しかも野球でライバル校のエースだったらしくて。」
「よく許してくれたな。」
「授かり婚らしい。」
「子は鎹か。」
「俺たちも結婚式やる?」
彼は冗談ぽく言ったが。
「ウェディングドレス着れるかな?」
僕はマジだった。
「着れるよ。似合うと思う。」
「じゃあ予約しとくね。」
「おう、頼んだ。」
ブーケは当然のごとく僕の腕の中に飛び込んできた。
そしてサプライズ決行日。
僕は買い物に行こうと車で彼を拉致し、結婚式場に向かった。
わが職場だ。
同僚も先輩も上司も協力してくれ、あれよあれという間に彼はタキシードに僕はウェディングドレスに着替えた。
「よかったー!なんとか入ったね。」
「先輩のお陰です。ダイエットメニューとか色々作っていただいてありがとうございました。」
「いやいや、朔くんの努力の賜物よ。旦那さん、絶対感動するよ。」
旦那さん。
そうか、彼は旦那になるのか。
そう思うと少し気恥ずかしかった。
そして彼は先輩が思ってる以上に感動してほぼ泣いてた。
「めちゃくちゃ綺麗だよ!」
「ありがとう。そっちも馬子にも衣裳って感じで似合ってるよ。」
「馬子にも衣裳は余計だわ。」
「じゃあ、歩きますか。バージンロード。」
「ちゃんとエスコートいたします、お姫様。」
一歩ずつ足を踏み出すごとに彼との三年の月日を思い出した。
出会った日のこと、初めて旅行に行った思い出、どのシーンでも彼は笑っている。
僕は彼の笑顔に救われてた。
男しか愛せないと分かってから、本当は何度も死ぬことを考えた。
親には理解してもらえなかったし、親友からも拒絶された。
誰にも受け入れてもらえないんじゃないか。
そう思ってた。
誰かと愛し合う未来なんて想像できなかった。
今こうしてバージンロードを歩いてるなんて夢のようだ。
そしてみんなが祝福してくれている。
幸せすぎてバチが当たるんじゃないか、とすら思う。
「朔、ありがとうな。」
彼が小声で言った。
「こちらこそありがとう。」
「俺バージンロード二回目だけど、前より断然今の方が緊張してる。」
「汗すごいもんね。」
「絶対幸せにするからな。」
そう言った彼の横顔は凛々しくてカッコよかった。
式が終わって車に乗ると彼が、
「運転変わるよ。連れていきたいとこがあるんだ。」
と言った。
ベタに海とか連れてかれるのかと思ったら彼の実家だった。
「え?まじで?」
「ちゃんと紹介したいんだ。」
「事前に言ってよ!お土産とか用意してないし。」
「そんなのいいんだよ。さぁ、行くぞ。」
そう言って俺の手を引く彼の後ろ姿が頼もしくて惚れそうだった。
この先、何があっても大丈夫。
そう後頭部に書いてる気がした。
「はいはい、旦那様仰せのとおりに。」
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