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僕は運転席の横顔が好きだ。
彼と僕の時間はたった二時間。
二時間だけのバカンス。
一ヶ月に二回、僕らはいつもの場所で待ち合わせする。
二時間で何ができるか、お互いプレゼンして決める。
僕にとってこの二時間はとても特別だ。
もう三年になる。
僕は結婚式場で働いていて、彼の披露宴をみていた。
結婚式前夜、ホテルのバーで一人で飲んでる彼と出会った。
隣に座り、目が合った瞬間分かった。
彼は僕と同じだ。
男しか愛せない。
彼も僕がそうであることが分かった。
だけど何もなかった。
その夜は。
何かあったのは彼の結婚式の一ヶ月後。
行きつけのバーで彼と再会した。
僕が店に入った時点で彼はベロベロだった。
「あれ?あのときのぉ~、」
「どうも。」
「どうもぉ~偶然だねぇ」
マスターから聞くところによると奥さんと大喧嘩したらしい。
「こっちは仕事で疲れて帰ってるのにさぁ~排卵日がどうこう言われてさぁ~」
「排卵日?子供作るんですか?」
「え?」
「男が好きなのに?」
僕がそう言うと一気に酔いが冷めたようで。
「やっぱ分かってた?」
「ええ。だって同類ですから。」
「なんでゲイのくせに結婚なんてしちゃってるんだ?とか思ってるでしょ」
「はい。」
「仕方ないよ。俺長男だし、親の体裁のためにさ結婚ぐらいしてやんないと。迷惑一杯かけちゃったし。」
「迷惑?」
「自分がゲイだと自覚したのが中2で、好きなやつができて、でも言えなくて悶々として引きこもっちゃったんだよねぇ2年ほど。」
「俺は三年。」
「え?」
「三年、家出しました。」
「そっか。」
「子供作るのしんどいですね。」
「うん、しんどい。」
「でも頑張らないと。」
「うん。」
「息抜きに僕と付き合いませんか?」
「え?」
「一ヶ月に二回、二時間だけのバカンス。」
これは前に見た映画のぱくり。
「バカンス。」
「早い話、愛人になってあげますよ。」
「あ、愛人?」
「とりあえず、今日うちくる?」
というのが、僕らの始まりだった。
この三年間色んなとこに行った。
二時間で行けるとこは。
鎌倉、横浜、日光、高尾山、初島、、、
写真は撮らなかったけど覚えてる。
よく笑った。
オープンカーで海際を走りながら風を一身に受ければ自由だと思えた。
たった二時間だから、僕らは喧嘩なんてする暇もなかったし。
だから時々聞く奥さんとの喧嘩話が羨ましかったりした。
最初は遊びだったのに、僕はいつの間にか彼を好きになっていた。
「今日はホテル予約した。」
「え?ホテル?」
「まぁ、着いてからのお楽しみだ。」
彼は一年前、父親の跡を継いで社長になった。
だからやたら羽振りがいい。
奥さんにブランドを買い与え、子作りを回避してるらしい。
ホテルのスウィートルーム。
テーブルの上にはバースデーケーキ。
誕生日だったんだ、今日。
忘れてた。
「今日でいくつ?」
「27。」
「そうか俺たち10も違うんだな。」
「誕生日なんて祝わなくていいのに。」
「なんで?恋人の誕生日だぞ?」
「恋人じゃない。僕は愛人だ。」
「愛する人と書いて愛人。」
彼は僕を抱き締めてキスをした。
タイマーがなるまで彼は僕を抱いた。
今まで生きてきて一番幸せな誕生日だった。
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