陶芸

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陶芸

 あれから家に帰ってすぐに準備を始めて、寝る間も惜しんで皿を焼く。  こんなに夢中になったのは、久しぶりだ。  昔の情熱が胸に灯って、それがゴウゴウと燃えている感覚がする。  出来る。今の俺なら理想の皿をつくりあげることが出来る!  真剣に創った数枚の皿を窯に入れる。  魂を込めて創った。  艶々で美しい色合いの皿を手に取る。  うん。今までの中では満足な出来だ。やった……。  俺だってやれば出来るんだ。  1番良いと思う皿を1枚選び持って、あの川の土手へ来た。  この3週間は陶芸のことだけを考えられていた……。  自分でも驚くぐらい没頭した。俺は眠い目をこすりながらも充足感に包まれていた。 河童? を待った。  あの時と同じ声、同じ顔、同じ身体で川からヌルリと音もなく出てきた。  「ああ、いたねえ」  やっぱり、河童だよな?  俺に近づきながら片手を挙げて迷うことなくユルリと隣に座る。  途端にジメッと湿度があがった。  それでも俺はかまわない。コイツが河童だろうが、横にいるとジメジメするとか、そんな些細なことなんて。  今の俺には。 「やぁ、来てくれてありがとう」  俺は自然と笑顔になるのを押えられなかった。 「これを渡そうと思って来てもらったんだ」自信たっぷりに、勿体付けて紙袋に入った物を渡す。  のんびりとした動作で、水かきのついた両手で紙袋を受け取ってくれる。 「なんだい? これは」 「皿だよ! 君、探していただろう?」俺は胸をはった。  打ってもすぐに響いてこない会話テンポにも慣れてきたから、ドヤ顔のまましばらく待った。  河童は、たどたどしく紙袋から艶めく水色の皿を取り出している。 「うわあ! キレイだねえ」  そうだろう、そうだろう。俺はしたり顔で何度も横で頷く。 「君にあげるよ」  さぞ、喜んでくれるだろうと河童を目を細めて見つめる。  目をまん丸にして、ヌルッとした動きで皿を撫でまわす。 「いらなあい」  ゆっくりと口を開けて、ハッキリと言い放った。 「……は?」  一体、この緑の物体は今なんて言った? 俺は両耳の穴に指を突っ込んで掃除をした。 「な、なんて? いらない? 皿だぞ! 探していただろう!」最後の方は語気を荒げてしまい、ごめん、と慌てて謝る。  河童は徐々にのけぞっていった。俺から少しづつ離れていく彼を見て俺も落ち着きを取り戻し、息を整えた。 「いやあ、吃驚したあ」  河童は取り立てて顔の反応もなく、無表情? のまま驚いたと言う。  とても驚いているようには見えない……。  俺は雄大な川を見て、一旦心を落ち着ける。  フゥ―と長く息を吐き、ゆっくり、丁寧に尋ねた。 「……皿いらないのかい? それとも、この皿じゃ駄目ってことかい?」  返事まで目線を下げて、時間潰しに指で撫でていた土手の草をむしる。
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