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合格
――数年が経った頃、河童はようやく嘴をクルっと上げて可愛く笑い。
「ぼく感動しちゃったなあ、今度のお皿はキミの頭に乗るくらいの大きさをつくってみてよお。より深く暗く濃い緑に」
そういわれた時、俺は鼻の奥が痛くなった。やっとだ、やっと受け入れられるんだ、と。
「創るよ。君のよう身体のような緑色に」
きっと、これが最終テストのようなものだ。
報われる。言われた通りの皿を創り上げられれば、俺はようやく河童に認められるんだ!
俺は慎重に、頷き。そして河童に少し身体を見せてくれと頼んだ。
ゆっくりと嘴が上下するのを確認してから、河童へ身体ごと向き直る。
マジマジとその体を見た。……深い、深く濃い緑色だ。
手も握らせてもらった。明らかに人間とは違う体温、質感、ヌメリ。
絶対にこの色を表現してみせる。改めて強い決心をして、家に帰ろと腰を上げた。
「まってえ、これ。これをつかってみてえ」
そういって透明の小さいガラス瓶を手渡される。
何だこれ? 瓶を目線の高さまで持っていきよく見てみた。
少しふってみる。
濃い緑の液体がドロリとスライムの様に揺れる。釉薬、なのか?
「……混ぜれば、良いのか?」
多種多様な釉薬を使うのがこの辺りの焼き方だけど、見たことない液体だ。
忘れたころにノソリと返事がある。
「最後にお皿にかけてみて」
「わかった、使わせてもらうよ」
「ただいま」
「はい、はい。ありがとうございます。ではそのようにお送り致しますね」
家に帰ると、母の声が奥のリビングからする。
俺は自分の部屋に戻る前に顔を出すと、母は電話中だった。
そのまま、通り過ぎようとしたら通話を終えた母が嬉しそうに声をかけてきた。
「あなたの陶器がまた売れたわ。あなたの緑釉がとっても深くて素敵だって」
「そうか……」
母は俺の陶器がネットや通販で売れるようになって、ずっと機嫌が良い。
俺にとっては思わぬ収穫だった。亡き父にも顔向けできる位には知名度も出てきた。すべては河童のおかげだ。
河童の為に作った物が雑誌に取り上げられてから話題になって、注文がくるようになった。
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