裏切り

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裏切り

美里ちゃんと仲良くなって三ヶ月が経った。 最初はぎこちない二人だったが段々と打ち溶けて 砕けた会話もするようになった。 「かおりん、村川春人の新作見た?」 美里ちゃんが笑顔で聞いてくる。 「見てない! もう出てるの?」 「うん、調べたら出てきたよ」 美里ちゃんは「ほら」とスマホの画面を見せてくる。 そこには『村川春人新作!!川は流れる』 とあった。 「わ! ホントだ! 絶対買うっ!」 わたしは鼻息荒く言う。 「村川春人良いよね!表現が豊かというか」 「そーなの! 表現がすごい!  感動しちゃったもん」 わたしたちには共通の趣味がある。 それは、本が好きなことだった。 凪咲とは趣味が合わなかったから嬉しいな。 「そーだ、昨日、子猫がいてねー」 美里ちゃんが楽しそうに写真を見せてくる。 「可愛い!!」 「そう! めっちゃ可愛いの! すぐお母さん猫が連れてっちゃったんだけどね」 美里ちゃんは苦笑いをする。 「それは残念だね」 わたしも苦笑を浮かべる。 ガラッと扉が開く音がして美里ちゃんが 扉の方に目を向ける。 「あっ、凪咲っち」 え? 振り返ると凪咲が立っていた。 「おはよー、美里」 「おはよ、凪咲っち」 親しげに笑う凪咲にわたしは不安を覚えた。 まさか、友達になんてなってないよね。 わたしの不安をよそに、凪咲は後ろの席に座る。 そして、クラスメイトと雑談をしていた。 わたしはモヤモヤしたまま講義を受けたのだった。           ◯◯◯ 『美里ちゃん、凪咲と仲良くしないでね』 わたしは美里ちゃんにLINEを送った。 こんなこと言うのは自分でもサイテー だって分かってる。 けれど、美里ちゃんは凪咲に取られたくなかった。 『仲良くなるわけないじゃんっ、 かおりんを無視した人だし! 心配しないで』 わたしはその言葉に安堵した。 『ありがとう。こんなこと言ってごめんね』 『当たり前じゃん、 友達が嫌がる子とは友達にならないよ!』 美里ちゃんはホントに良い子だな。 わたしはありがとうとスタンプを返した。 そして、眠りについたのだった。 翌日、なぜか美里ちゃんと凪咲は 親しげに何かを話していた。 なんで? 仲良くしないでって言ったのに。 いや、凪咲が話しかけたのかもしれない。 仲良くならないって言ってたんだから 美里ちゃんを信じなきゃ。 だけど、二人は日に日に仲良くなっていた。 「今日の講義のプリント見せてー」 「いいよぉ」 美里ちゃんが嬉しそうに笑う。 わたしはその様子を見てますます不安を募らせた。 美里ちゃんはわたしに話しかけにも来なくなった。  ほとんど二人で一緒にいる。 「美里ちゃん!」 勇気を出して声をかけると美里ちゃんは肩をビクッと 震わせ、こっちを見た。 「『川は流れる』読んだよ。面白かったし主人公が 涙を流す描写がすごく綺麗だった」 「……」 お願いだから、返事をしてよ。 わたしの願いも虚しく、美里ちゃんは 走り去っていった。 裏切られた。 仲良くしないって言ってたのに。 怒りがふつふつと湧き上がる。 許せない。 唯一の友達を奪った凪咲を。 わたしを裏切った美里ちゃんを。 あなたたちを永遠に許さない。 わたしは涙を流しながら美里ちゃんの 去っていく後ろ姿を睨みつけた。
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