日常が壊れるとき

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日常が壊れるとき

「佳織!! 見て! この子猫の動画!!  めっちゃ可愛くない?!」   ショートカットの少女がわたしに SNSの動画を見せてきた。 見ると子猫がへそ天をして寝ている。 「ふふ、可愛いね」 わたしは笑顔を見せる。 わたしの名前は野川佳織。 大学二年生だ。 そしてこの子は高校のときからの親友 園村凪咲。 話すのが苦手で友達がいないわたしに声を掛けてくれて、仲良くなったのだ。 わたしは楽しそうな凪咲を見て笑顔になる。 ふと時計を見ると講義の時間が迫っていた。 「凪咲、もう講義始まるよ、スマホしまわないと」 わたしは凪咲に優しく呼びかけた。 「うーん、もうちょっと……」 凪咲は子猫の動画に夢中だ。 「凪咲」 凪咲はわたしの声が聞こえていないようだ。 こうなったら、教授に怒られるまで しまわないのよね。 わたしは軽くため息をつき 授業の準備をした。 程なくして講義が始まる。 教授の長い話に瞼が重くなる。 わたしは自分の頬をつねり眠気を覚まそうとした。 けれど、眠気は収まらない。 「園村っ!!」 大きな声にわたしの眠気は一瞬で覚めた。 白髪頭の教授が片眉を上げて凪咲を見ていた。 「あっ、柿沼せんせー!」 凪咲は慌てるそぶりも見せず笑顔を見せた。 「この猫、ちょー可愛くないですか??」 教授にスマホを見せる凪咲。 ちょっと、それはまずいんじゃ。 教授は黙り込む。 怒っているようにも見えた。 そして、おもむろに口を開く。 「園村、お前の単位はなしだ」 そう言って教壇に戻る教授。 「冗談も通じないのかよ」 凪咲は頬を膨らませる。 「凪咲、今のは完全に凪咲が悪いよ」 このままじゃ、留年するんじゃないかと 心配になった。 「だーいじょーぶだってー」 凪咲はスマホから目を離さない。 「凪咲いい加減に」 「もううるさいな!!佳織は黙っててよ!」 その言葉にわたしは何も言えなくなってしまう。 「……ごめん」 わたしは小さく呟くと、 ホワイトボードに目を向けた。           ◯◯◯ 放課後、凪咲と図書館で過ごしていると、 「佳織っ、一緒に写真撮ろうよー!」と言ってきた。 「いいけど、SNSには載せないでね」 わたしが忠告すると凪咲は 「分かった分かったー」と笑った。 「それじゃ、撮るよー!!」 スマホの画面に微笑むわたしとピースサインをした 凪咲が映し出され、シャッター音が鳴った。 その夜、何気なくSNSを見ていると わたしと凪咲が映った写真がアップされていた。 「えっ?」 わたしはベッドから起き上がり、画面を凝視する。 それは、紛れもなく私が映っている。 アップしたのは凪咲。 わたしに許可を得てないし 同じ大学の人に見られたくないのに。 それに、悪い人が見てたらどうするの! わたしは凪咲のワガママぶりにイライラしながら メッセージアプリを開く。 『凪咲、なんでわたしの写真 SNSにアップしてるの? わたし載せないでって言ったよね?』 『あー、 載せない方がいいかんじだったー?』 『最初から載せないでって言ってたでしょ?』 『本気とは思わなかったー!ごめんねー 女子はSNSに載せられるの 好きかと思ってー(笑)』 何よそれ。 だんだん腹が立ってくる。 『SNSってたくさんの人が見るし、悪い人も見てるのよ。そんな人に通ってる大学とか特定されたらどうするの!!』 既読がついたけどメッセージが返ってこない。 『説教とかマジウザいんですけど』 しばらくしてそう返事が返ってきた。 「はぁ!?」 思わず声に出る。 『わたしは真剣に言ってるの! 今すぐ消してよ』 『はいはい、わかりました。消しまーす』 その態度何?! 怒りがマックスになる。 SNSを確認するとわたしと 凪咲の写真は消されていた。 良かった。 『消してくれてありがとう』 本当はありがとうなんて言いたくないけど 一応言う。 既読がついたけど返事は無かった。 翌日 昨日のことを謝ろうと 凪咲に向かって「おはよう」と挨拶した。 けれど、凪咲はこちらを一瞥して 他の友達と談笑していた。 「凪咲」 「それでさ、マジ可愛いんだよ」 凪咲はわたしの言葉を無視して話し続ける。 怒っているのかな? しばらくすれば機嫌が治るだろう。 そう思っていたけど、彼女は一ヶ月経ってもわたしと口を利かなかった。 謝ろう。 そう思っていたけど 何度声をかけても無視される。 凪咲、ごめんなさい。 わたしは何度も心の中で謝った。 けど、その思いは届かない。 どうして、こうなっちゃったの。 全てはわたしがSNSに載せるなと言ったせい? わたしは泣いているのを気づかれないように 俯いて講義を受けた。
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