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 女は俺に顔を寄せ、持っていたスマートフォンで俺と自分がフレーミングされるようにかざした。機械的なシャッター音が聴こえた時には遅かった。 「はい、ありがとう。この写真は使うかもしれないから、不服がある場合はこちらへ」  女はナイロンのフライトジャンパーのポケットから小さな紙片を取り出し、テーブルに置いた。名刺だった。 「あたしの写真はそこのQRコードから見られるわ。興味があったら」  耳が見えるほどに短い髪、ぬけるように色が白く、ひょっとしたらハーフかクォーターなのかもしれなかった。薄い唇は化粧っ気が無い。テーブルの名刺には何かそれっぽいデザインロゴとQRコード、そして女の名前だろうか、「フォトグラファー・キムラリコ」と記されていた。俺が名刺に気を取られている間に、キムラリコという女は軽く手を振りながらさっさと店を出て行った。 「おい、こら、待て、」  立ち上がり追いかけようとしたが、アルコールは俺の平衡感覚を綺麗に奪っていた。盛大に店内で転倒し、コップが落ちて派手な音を立てて割れた。俺の手の名刺は、その時の酒で少し文字が滲んだ。
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