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 傍らに映っているキムラリコは大抵歯を見せて笑っているが、時折焦点の合わない、まるで小さなスマートフォン内臓のカメラレンズの奥に意識が行っているような眼をしている事があった。その虚ろな瞳の方が俺には気になった。少し病弱に見えるような色白の肌の中の、長い睫毛ととび色の瞳を見ていると、その瞬間に微かにあのベテラン監督の言っていた「空気」が映り込んでいるように、俺には思えた。  せっかくのオフの日を俺は、狭くちらかったワンルームでスマートフォンを見つめて過ごした。女の顔は嫌になるほど見たが、手掛かりは無かった。プロフィール欄に書かれた「お仕事の依頼はこちらから」とあったダイレクト・メッセージからメッセージを送ってみようと思ったが、自分が誰なのかを説明するのが面倒になった。早朝のあんな場末の酒場で飲んでいた事と、その後店主にさんざん嫌味を言われながら割れたコップと酒瓶代を弁償させられた事を、思い出すのが億劫だった。  日が暮れて、何か食おうかと考えながらそれでもスクロールを続けているうちに、見知った顔にぶつかった。
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