DEAD END

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ピンポーン。 家の中からは掃除機の音が聞こえている。もう一度チャイムを押す。 ピンポーン! ピンポーン!! 「聞こえないのかな?」 合流したひとつ後輩の刑事倉沢は諦めて去ろうとしたが、篠山が命じる。 「返事するまで押して」 「えー?また後ででいいんじゃないですか?」 「居留守は二回目なんだよ。遠慮することねーわ」 掃除機の音が止んだ。 「押せ押せ」 倉沢はため息をつきながらチャイムを押した。 しばらくの沈黙の後、玄関のドアが開けられた。 先輩が切りだすと思い込んで油断している倉沢を肘で小突く篠山。反射的に満面の笑みを浮かべて倉沢が、 「あっ、お忙しいところすいません!ワタクシこういうものです」 警察手帳を掲げると、 「またですか?何もお役に立てることはないって散々言ったのに」 心底うんざりした顔で、四十代後半らしき主婦が吐き捨てた。篠山が引き継ぐ。 「それ、マンションの殺人事件のことですよね?私たちがお聞きしたいのはそこの通りで起こったOL襲撃事件のことなんですが、よろしいでしょうか?」 主婦の顔は更に曇った。 「あああ・・・、それにしたってお話しすることないんですよ。何も見てないし聞いてないし」 「見てない?」 篠山が訊き返すと主婦は何か自分がしくじったような気にさせられたのか、急に愛想が良くなり言い訳口調で話し出した。 「一年前に、この先にクラブっていうんですか?そういうのができて」 と駅の反対の方向を顔で指す。 「それ以来夜中に悲鳴が聞こえることが多くなったんですよ。最初は大変だと思っていちいち通報していたんだけど、全部ただの酔っ払いだったりしてね、おまわりさんに嫌な顔されちゃって。もうこのあたりの人はちょっと大声が聞こえたぐらいではなんとも思わなくなってるんです」 急に協力的な様子を醸したことに易々と食いついて倉沢が口を挟む。 「しかしあの夜被害者の女性は、『助けて!殺される!』と叫んだというのですが。いつもそんな叫び声だったんですか?」 出なくていいときには積極的に出てくる男なのだ。目に見えて主婦が一歩後ろに引いた。 「なんて叫んでたかなんて聞き取れませんよ」 「近くの他のお宅の方々は聞いたとおっしゃってます。それで通報してくださったんですが入浴中だったり就寝中だったりで、外を見たときには犯人は逃げてしまっていたそうなんです。だから悲鳴の後すぐに外を見た方を探しているんです」 これ以上話を続けたくないという苛立ちが抑えられなくなった主婦は声を荒げた。 「『殺される』なんて聞こえてきてね、外覗いたりするわけないじゃないですか。犯人に見られたら何をされるかわからないでしょう?!警察に犯人の手掛かりを教えたのがばれたら逆恨みで危害を加えられるかもしれないし!だいたいね、あんな夜遅くに女一人でふらふら歩いてるのがいけないんじゃないの!私は関係ないんだから」 言い分に呆れるよりも剣幕に圧倒されて倉沢は固まってしまった。後輩の手前ということがあって篠山は冷静に返すことが出来たのだろう。 「その通りです。ご協力ありがとうございました。何か思い出したことなどありましたらどうかご連絡くださいね」
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