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手紙、受け取りました。
実家の姉から『学生課の方が岡村さんという人からの手紙を届けに来ている』と電話があった時は本当にびっくりしたよ。
家まで来るなんて大学側の個人情報の扱いに問題があるし受け取らないことも出来たけど、ネットじゃなくて手紙、そして学生課を頼るというのがあなたらしくて受け取るよう頼みました。
30年。早いね。
私は就職した会社で出会ったあの人と結婚しました。
色々あって長く付き合ってから結婚したから子供は1人でまだ中学生になったばかりです。
私もどうしてるかなと探したことはあったよ。
全然SNSに出てこなくて、出てこないところもあなたらしいなと納得してました。
別れてから半年後に会った後、もらった手紙に返事をしなくてそれきりだったから、探されるとは思わなかったよ。
別れた頃の私の気持ち、あまりハッキリ伝えてないままだったかな。
私たち、何もかも初めてで楽しかったね。
このまま結婚できればいいなと思っていた。
あなたが社会人になるまでは。
先に就職したあなたが忙しくなるのはわかっていたし、土日も出勤で会えないことも我慢できていた。
携帯が無いあの頃、新宿の喫茶店で残業の合間に何時に会いにくるかわからないあなたを待つのも苦痛じゃなかった。
20分間でも愛おしかった。
でもだんだん悲しくなってきた。
仕事の話がわからないのは仕方が無いと割り切れたけど、新しい仲間の話題が苦しくなった。
男女の同期グループ。
その中に私と同じ名前の人がいると言っていたね。
詳しく話すのは私を安心させるためだとは思ったけど、心が動いた罪悪感を誤魔化すようにも見えた。
淋しさが積もっていたあの日。
久しぶりのデートが嬉しかった日。
向こうから会社の人達が歩いてくるのが見えたら『逃げるぞ』と言って横道に逸れたあなた。
もう限界だった。
あなたの仕事内容も理解できないうえに就活もうまくいってないバカな私は、彼女として紹介してもらえないのね、それか紹介したくない女性があの中にいたのねと、私の気持ちは壊れてしまった。
モヤモヤしながら私も就職をして夫に出会ったのをきっかけに、気になる人ができたとさよならを告げた。
半年後に誘われて会ったのは、夫に正式に付き合おうと言われて怖じ気づいたからなの。
こんな私が新しくはじめられるのかなって。
もしかしたらあなたと別れたのは間違いだったのか確かめたかった。
会ってみても、あなたへの気持ちは壊れたままだったよ。
だから手紙の返事はしなかった。
あなたとのことは、大事な思い出。
初めての彼氏、忘れられるわけがない。
私も懐かしい。
だけどもうその世界には生きていないの。
だから会いません。
あの頃とは違う別の世界で幸せにやっています。
生まれ変わったらまた夫と結婚してこの子を生みたいと思うほどに。
あなたも今の世界を大切にして欲しいです。
きっと私と同じ名前の方と結婚したのよね?
どうか傷つけないで。
人生半ばになって、色々焦る気持ちはわかる。
でももし夫が必死に元カノを探していたらと思うとやり切れないもの。
だからもう追いかけないで。
あなたが元気に生きていることが知れたのはよかったです。
これが最後のさようなら。
またね、は無しね。
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