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佐野さんの前に来ると、何を言いたいのか、すっかり分からなくなってしまう。
(とにかく、何か、言わなきゃ……サインが、書き終わる前に……ええと……)
私「あの……今日、宇都宮から来たんです」
佐野さん「えっ、ああ、そうなんですか。それはそれは、遠くから」
(あああああ!!! 私ってばもう!!! もっと気の利いた会話はできねえのかよ!!! くそお!!!)
佐野さんがサインを書き終え、私にTシャツを渡してくださった。
この時、なんだか、サインをもらえるのも当たり前のように思えていた。他のファンの方との距離感が、私をそうバグらせてたのか、私のことを覚えていないのなら、何をしたって構わないと思ったのか、だから、少し図々しくなっていたのだ。
席を立ちかけた佐野さんに、私は上ずった声で叫んだ。
私「あ、あの! あ、握手、いいですか?」
もうなんとでも言え。だめで元々だ。
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