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つい声に出てしまった独り言に
予想外にも答えが返ってきた事に驚き、
反射的に視線を下に向けるとテーブル越しに
少年が座ってこちらを見ていた。
「わっ!?」
背景に同化してそれまで
全く気が付かなかったから
発見と同時に飛び上がるかと思った。
まさか――
「いま……君が喋ったの?」
「他にいないだろ」
「あ、ああ。だね」
突然の流れで驚くリアクションこそ
逃してしまったが
意表を突かれると人って案外冷静にも
なれるもんだと妙な分析している自分に気付く。
「でも耳が聞こえないんじゃ……」
「だからこうやって君の唇の動きを読んでる」
唇の動き……
所謂、読唇術って事?
こんな風に思うのはアレだけど
耳が聴こえないから勝手に
喋れないもんだとばかり思い込んでいた。
「聞こえないから話せないとでも思ってた?」
「――!」
完全に自分の考えを指摘されて言葉に詰まる。
ただ決して責めたり軽蔑したものではなかったが、
少年の声は年齢にそぐわぬ静かさで
抑揚の欠片もないものだった。
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