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「セ、セキ。
悪い、もっとゆっくり喋ってくれ、
言葉が上手く読み取れない」
「あ――そっか」
イゼルがそれまで間を置くことなく
返答していた為、最初の違和感は
何処へやらすっかり聞こえないのだと
いう事を忘れかけていた。
「大丈夫、ノーチェは変じゃなかったよ。
それに――なにより綺麗だ、彼」
出来るだけゆっくり、笑って伝えた。
「…………」
イゼルは俺の方をジッと見て
一瞬、何か言いたげに開きかけた口が
再び閉じられたのを気付かない振りをした。
言いたくない事、言えない事
この子は自分が想像する以上に抱えているんだろう。
「言いたくなったら聞くよ、いつでも」
そう言ってやりたいのは山々。
だが、所詮偶然立ち寄っただけの
人間に何が出来るのか?
そう考えるとどうしても
その先の言葉が躊躇われてしまった。
「そろそろ行くよ」
家に帰って落ち着いたらまた様子を見に来ればいい。
「色々と世話を掛けて悪かったね。
ノーチェにもご飯美味しかったと
伝えておいてくれないか」
「会っていかないのか?
兄は……夜行性だから夜にしか会えないが」
「いやそれには及ばないよ」
正直あの顔をもう一度見ておきたかった、
というのが本音だけど、わざわざ
寝てる彼を起こす理由にはならないから。
「じゃ、ね。また来るから」
少ない荷物を携えてその家を後にした。
「…………ああ、きっとすぐにね、セキ」
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