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第0章 陰と陽
音もなく漆黒の空を泳ぐ舟の内部で、激しい言い争いがなされていた。
「本当にこれしか方法はないのでしょうか?」
「あんなところに姫を連れていくのはやはり心配です」
「以前同じようにあの星へ送った者は、行方も分からなくなっているではありませんか」
「もう決まったことだ!」
一喝されて場は静まり返る。
「このまま月にすがっても成す術はない。確実に助かる保証はないとしても、可能性にかけるほかないのだ。その前回の行方不明者に関しても、経過報告では成果が現われていた。ただ、正常な者にはあの星の環境は耐え難く、付き添い人は死亡が確認され報告は途絶えてしまった。そのため、今回は付き添いは無しだ。あの星の人間に守護を託そう。不完全ながらも、前回のデータから治療に要する期間も目処がついている。そのころに迎えを」
部下たちは黙って頷いた。
「この植物は、本当にあの星にもあるのですか?」
中央の台に置かれているのは緑色の、細長い筒状の植物。
「前回の報告でこの植物が大量に生えている場所が記されていた。そこへ運ぶのだ。姫を中に入れて」
船窓に目をやると、青く大きな星が前方に近づいてきている。
「我が星と反対の星・・・」
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