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「大ばあちゃんがさあ そんなこと言うんだよ。百年ごとの再会なんて有り得ないでしょ」 夏休みの高校の文芸部の部室で、美津江の声だけが響いていた。美津江は文芸部員ではなく漫研であったけれども。 美津江は一人喋り続ける。 「あたしの先祖にね、不老不死の薬を作った人がいるんだって。大ばあちゃん百二歳であんな元気で、その薬飲んだのかなと思っちゃう」 「作ったって・・・成功したってこと?」 実は美津江はその部屋に一人だったのではない。返事がなかっただけであって話し相手は存在していたのだ。 天然パーマに伊達眼鏡の同級生セツ。この学校でたったひとりの文芸部員である。執筆に夢中になると平気で友達をもスルーするタイプだ。 夏休みも部室で執筆するセツに会いに美津江は通っている。 「したんじゃない?」 美津江の能天気な答えにセツは笑って、 「じゃその人それ飲んで不老不死になって今も生きてるの?」 そういえば 不死身の先祖の話は聞いたことはない。作ったからと言ってそれが効いたかどうかは別の話だ。美津江は今更それに気づいてがっかりした。 「あ、でもね、その人は、死んだかどうかわからないんだってよ。ある日突然いなくなったんだって」 言ってからまた笑われると悔やんだが、セツは考え込んでノーリアクションなのでこれ幸いと話題の方向性を変えてしまおう。 「ねえ、こないだの龍神のお話おもしろかったから、うちの先祖のことも小説にしてみてよ」 美津江はセツという小説家のファンだった。きっと将来芥川賞ぐらい取ると信じている。こないだの話というのは、毎年美津江が冬休みに行く母の田舎で催される祭りにまつわる伝説のことで、セツはそれを基にした小説を書いたのだ。美津江はその小説に感動し、それ以来セツのことを心の中で勝手に伝説探偵と呼んでいる。知られたら嫌われそうだから絶対に言わない。 「不老不死の薬と言えば、かぐや姫だよねえ?」 宙を睨んでセツは呟いた。 「ええ?そうだった?」 「あたし、前から不思議だったの。なんでかぐや姫は不老不死の薬なんか持ってたんだろうって。月の人間は歳をとらないって言うんだけど、それだったら薬なんか要らないんじゃない?それとも、月の人間は薬によって不老不死を手に入れたのだろうか?」 「かぐや姫って、そんな話だったっけ?」 セツは既に自分の世界に入り込んでしまっている。 「第一、月の住人が不老不死だったとして、それなら何故今は月には誰もいないのか?永遠の命が永遠ではないとは・・・」 探偵の邪魔をするまいと、美津江はそっと部室を出た。下駄箱の前にある自動販売機で紙パックのカフェオレを二つ買って戻ろう。 廊下に出ると、もう独り言になったセツの呟きが最後に聞こえた。「竹と言えば」 ○○と言えばはセツの口癖だが、今どこから竹が?かぐや姫と言えばが省略されたのか。 「百年に一度だけ花が咲くんだって」
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