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第一章 竹林
「タケル!どこじゃ!」
胸に白い小さな包みを抱えて、竹取の翁が駆けてきた。村の外れの医者の家に居候する若い男タケルを呼んでいるが、今日に限って返事がない。
「どうしなさった?タケルは夕べから帰って来ておらんよ」
ぼろ服を着た医者が出迎えた。
「おお、あんたにも用があったんじゃ。これを見ておくれ」
翁は白い包みを慎重に開いて見せた。包みよりも更に輝くように白い赤ん坊だった。
「捨て子を拾ったか」
「竹の子じゃ」
「筍?」
「竹の、子供じゃ!竹から生まれたんじゃ!」
「ほう・・・。で、タケルには何の用で?」
「若いのの手が欲しいんじゃ。戻ってきたら竹林に来てもらえんかね」
「多分町の女のところじゃろうから、昼過ぎには戻ると思うが・・・。」
遠くから歩いてくるタケルの姿が見えた。
「すまぬ、しばしこの子を預かってくれ」
翁は赤ん坊を医者に託すと早速竹林へ彼を引いて行った。
「これを運べばいいのかい?」
竹の切り株から眩い金の粒が大量にこぼれおちていた。
「ああ、頼む。こんなものが見つかったらなんと言われるか。おまえには半分やろう」
「別に隠すこともないんじゃない?」
「金はともかく、この竹林ごと取り上げられるやもしれん。代々守ってきたこの竹林が」
「この花が咲くのが見たいな、もう一度」
金を袋に詰める手を止め竹の先端を見上げてタケルはつぶやいた。
「花?竹に花が咲くか?」
「咲かないんだっけ?」
「わしは見たことがない」
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