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第二章 月光
「暗くなったら部屋に入って休みなさい」
翁は縁側へ語りかけた。
「明るいわ。おじいさま」
降り注ぐ月の光をはらはらと舞わせて、まるで月そのものかのような美しい乙女が無邪気に微笑む。
「ああ、満月じゃからのう」
竹から生まれた赤子は、筍のごとくに三月とたたずに年頃の娘に成長した。娘のこの世のものとは思えない美しさは、そのこの世のものではなさそうな急成長を他愛のないことと感じさせた。
子のない翁の家に赤子がいることをどう皆に説明しようかと思ううちに、日に日に増す輝きに人々が吸い寄せられて評判になってしまった。
「わしらはもう寝るよ」
「おやすみなさい、おじいさま」
かぐやと名付けられたその娘は、よくこうやって縁側で夜更かしをする。始めのうちは心配で一緒に起きていた翁も体がもたずタケルに番を頼むことにしたが、のぞきに来る男達はかぐやの余りの美しさに蛇に睨まれた蛙のようにおとなしいので、この頃では安心して一人で過ごさせている。時折タケルが、町へ女に会いに行くときに通りかかると少し話などしている。
「またサリさまのところ?」
「やくなよ」
「?やくって?なんですの?」
「なんでもねーよ」
タケルは行こうとしたが、庭を囲った柵の陰から三人の男がかぐやを見ているのに気がついて
「また夜更かしするのか?」
と怒ったように言った。
「おじいさまたちはもう寝たわ」
かぐやは柵の向こうの人影に向かってにっこりと微笑みかけた。がさがさっと柵が揺れたかと思うと、三つの人影がそこから走り去って行った。そうか、こいつにはこの手があると、タケルは思い出した。
「若い人は夜が好きね、どうしてかしら」
「いろいろなことを隠してくれるからだろう」
「でも月が見てるわ」
「見てないよ。月は太陽の後ろ姿でしかない」
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