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第三章 薬
「おじいちゃん遊んで」
孫娘のか細い声で老医者は我に返った。
「おう、来ておったのか」
机の上は粉薬が散らばっている。床に散乱した紙束をかき集めて、
「お前の顔を見ると、わしのしていることが無意味で仕方なく思えてくるよ」
老医者は遊びたくてうずうずしている孫娘キヨの頭を撫でた。
町に住む娘夫婦は毎日忙しく、キヨは時々タケルに会いに来るサリに連れられて老医者の家に遊びに来るのだ。
「そうじゃ、かぐやのところへ連れていってやろう。それはそれは美しいおなごなんじゃ」
翁の家へ行ってみると、縁側にいるかぐやが外から見えた。キヨはその輝きに立ち止まり、そこから動かなくなってしまった。
「ここからでも充分な位の美しさじゃのう」
孫娘の喜ぶものが考え付かないオヤジが自分の嗜好を押してしまった悲劇が起こる瞬間であった。
「サリお姉ちゃんのほうが綺麗だ!」
キヨは叫んで走って行ってしまった。
「おいっ、待ちなさい!一人でどこへ・・・」
慌てて後を追いながら老医者は、キヨの言うのは確かにそうかもしれないと思った。かぐやの美しさには、どこか冷たいものがあった。そう、まるで冬の月のような。
「かぐや。おまえに縁談があるんじゃが」
翁はかぐやの後ろ姿に語りかけた。
「縁談って、なんですの?」
振り返ってそう尋ねるかぐやは確かに年頃に見えるとはいえ、情の面ではまるで幼子のようで翁は縁談をずっと断ってきたのだが、自分の亡き後を考えるとやはりそうはいかなくなった。
「年頃になれば嫁に行くものだ。申し込みのある方々に会ってみなさい」
「はい、おじいさまがそうおっしゃるなら」
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