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第四章 覚醒
それは、太陽と入れ替わるように満月が昇る夜だった。
月を見つめて微塵も動かないかぐやが心配になり、翁がそっと近寄っていくと、大きな瞳から真珠のような涙が一粒滑り落ちた。
「何か悲しいことでもあったのかい、かぐや」
「この気持ちは、悲しいと言うのですか?」
悲しいかどうかは量りかねたが、確かにかぐやの顔には今までには見られなかった『憂い』というものが浮かんでいた。
「縁談が嫌なら明日の見合いはやめてもいいのじゃぞ」
「いやではありません。ただ何か、忘れていたことがあったということを思い出したのです。もうすぐわかるような気がします」
咄嗟に翁は、この娘が自分が何者かを思い出しつつあるのではないかと考えた。もしかしたらそれは…。
「全て思い出したらどうかきちんと教えておくれ。わしも気がかりなのじゃ」
「はい、おじいさま。おやすみなさい」
翁が去っても月を見つめるかぐや。
そのとき、月から雫が零れ落ちてきた。
雫を夢中で目で追うと、落ちた庭の細竹の茂みから輝く兎が跳び出てきた。
兎とかぐやはしばし見つめ合って、かぐやを誘うように兎は塀の外へ跳んで行ったが、もうかぐやは気に留めなかった。
竹林まで駆けていった兎は月の光を浴びて姿を変えた。天女のように見えるが漆黒に包まれていた。闇の化身のような。
「まだ時は来ていないようだね」
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