lock 2

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 あちらのラウンジで寛いでいるのが、弊社社長の箭内です。社員の私が言うのも何ですが、とても頭の切れる人物なんですよ。  弊社は、二輪車の製造販売において国内大手四社の一角を担っています。海外輸出も積極的に行っており、各国での評判も上々ですが、ここまでシェアを拡大したのは箭内の代になってからなんです。  ああ申し遅れました。私、箭内の秘書の湖山と申します。  昔から弊社製のバイクが好きで、中古で買ったものを丁寧にメンテナンスしては大切に跨ってきました。縁があって弊社に就職し、初めて新車を購入した時には感慨もひとしおでしたね。  仕事ぶりを評価してもらい、箭内の秘書に抜擢された時は、夢じゃないかと思いました。憧れの人でしたから。  ──憧れというのは、綺麗すぎる言い方かもしれません。いや、初めはたしかに憧れでした。ですが、箭内の仕事振りを間近で見ているうちに、そして箭内のプライベートを把握するうちに、憧れは欲望へと変わっていったのです。  箭内は私に対してプライベートを隠しませんでした。密会のセッティング、カモフラージュ、相手の男への口止めなどの明け透けな部分も、私へ託すようになっていきました。  一度聞いたことがあるんです。 「社長、どうして私には隠そうとしないんです?」  すると箭内は薄く笑いました。 「湖山が知りたいだろうと思ったからさ」  私の箭内に対する憧れが欲望へと変わり、それがどんどん爛れて膨れ上がっていたのを、箭内は見抜いていたのです。  恐ろしい人だと思いました。私が箭内に抱くどす黒い思いを知ってなお、見せつけるかのように男と密会し、部屋へ消えて行く箭内。  部屋の中では、箭内と男がみだらな行為を繰り広げるのだろう。私は、忠犬のようにじっとドアの外で待っているだけ。私は箭内を乗りこなしたい。あの人をじっくりとメンテナンスし、カスタムし、私だけのものにしたい。  だが今日も箭内は、そんな私の欲望を知りながら、いつものように男との密会をスケジュール帳に書き込ませるのです。  仕立ての良いスーツの下は、拘束されたいやらしい身体のくせに。  私は箭内の秘書である前に弊社の社員ですから、箭内の安全確認を怠ってはいけません。ましてや今日は六月九日。業界全体で、二輪車へのルール、マナー向上を図る日です。  勿論私もしっかりとルールは守らなくては。二重施錠は常識ですよね、皆さん。  私は、箭内が社長室へ入るや否やその身体を羽交い絞めにし、急いた気持ちをぶつけるようにベルトを外し、下着を引きずり下ろしました。  既に箭内は、おのれの欲望に枷をかけていました。いやらしい貞操具。これを自分で装着し、上からスーツを着て、何事もないかのように会社へ来て。  初めて会う男にこれを外させるのかこの人は。私ではなく!  用意しておいた貞操具を箭内の秘孔へ荒々しく押し当てれば、そこは何の躊躇いもなくぬるりとそれを飲み込みました。まるで、待ちかねていたかのように。  箭内はそういう男です。私の思惑を見抜き、笑い、そして許す。私は、そんな箭内の下僕でしかありません。  たとえ、ふたつめの貞操具を施錠したとしても、主導権はあくまでも箭内にあるのです。  箭内はこれ見よがしにルームキーを指に挟んで、私にちらつかせている。  ああ、箭内が盗まれなくて良かった。箭内の身体は、私のものなのですから。 Fin.
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