狂弾は還らず

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     四  木製のドアの前に立った。  中の様子はわからない。おそらく、鍵がかかっているだろう。  少し考えて、裕司はドアにぶつかり、強くドアをノックした。 「カチコミです。なんとか仕留めました」 「なにっ。畜生が」  内側から声が聞こえ、開錠の音が聞こえた。同時に、待て、と言う別の声がした。  裕司はドアノブを回し、ドアの先にいる男を押しのけるように転がりこんだ。眼の前。銃を構えている。(すわ)りこんだ状態で三発撃った。裕司は左肩を撃たれたが、相手は絶命した。背後。長ドスが振り下ろされてくる。躰をひねって躱したつもりだが、左手を削られた。相手は、次の攻撃に移っている。裕司は左肘で長ドスを受けた。刃が肘に食いこむが、構わず撃った。胸部に二発、顔面に一発。裕司の左手は、中指が第一関節から、薬指と小指は第二関節から先がなくなっていた。  左膝に、焼けた杭を撃ちこまれたような感覚が走った。裕司は仰向けになり、弾の来た方に膝を立てた。この体勢なら、脚部で胴体や頭部を守れる。右の脛を撃たれた。鳥川。裕司は右膝で右手首を支え、全弾撃ちこんだ。四発撃ったところで、スライドはホールドオープンの状態になった。  裕司はなんとか起きあがった。鳥川は床に尻をつき、壁にもたれかかるようにしていた。まだ息がある。 「てめえ、どこの組だ」  裕司は答えず、最後の弾倉を差して後退したスライドを戻すと、鳥川にとどめを刺した。  のどが乾いていた。裕司は部屋の隅にある冷蔵庫にむかい、ふらつきながら歩いた。左手の親指と人差し指で摘むように冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出す。閉めた冷蔵庫に背中を預け、その場へ坐りこんだ。  グロックを床に置き、ビールを開けると、ひと息に半分飲んだ。これほどうまいビールは、人生で初めてだ。  パンツのサイドポケットから、ラッキー・ストライクの箱を取り出した。サイレンの音が聞こえる。脚がやられた以上、脱出は無理だ。ジッポで煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吸いこみ、吐き出した。  表でパトカーが停まり、事務所に警官が突入してきた。階下で足音と声が聞こえる。すぐに、三階にも上がってきた。 「武器を捨てろっ」  六名の警官が、裕司に拳銃をむけて警告してきた。  見りゃわかるだろ。ビール飲んでるだけで、武器なんか持っちゃいねえよ。心の中で呟き、裕司は煙草を喫い続けた。全員、腰が引けて手がふるえている。そんな構えで、俺を撃てるのか。 「おい、貴様っ」  再度の警告も無視し、裕司はビールを飲み干した。空き缶を置き、グロックを手に取る。 「もう腹いっぱいなんだけどな」  裕司はにやりと笑い、グロックを警官たちの方へむけた。  警官たちの銃が、火を噴いた。      (了)
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