飲み会で酔った私を抱えてくれたのは、親友の女の子でした~どうやら私のことが好きだったようでそのまま頂かれそうで私の貞操がヤバい~

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飲み会で酔った私を抱えてくれたのは、親友の女の子でした~どうやら私のことが好きだったようでそのまま頂かれそうで私の貞操がヤバい~

その日は大学のゼミの飲み会だった。正直飲み会なんて面倒なだけなのだが、最低限の義理というものはある。  けれど私はお酒が強くない。さほど飲んだつもりはなかったのだけど、かなり酔ってしまっていた。  家まで私を送り届けてくれたのは、同じゼミに所属する後輩で友達でもある――いや親友といってもいいと思う――恵美めぐみである。  典型的な陽キャでおしゃれにも余念がなく、実際友達も多い恵美と、陰キャを絵に描いたような冴えない眼鏡女の私が親友というのは不思議な話だと、私自身も思う。  けれど何故か恵美は私によく懐いてきた。寄るなリア充めと警戒しまくりの氷点下態度を取っていた私に対し、この子は一向にめげなかった。  根負けした私はしぶしぶ恵美の話に付き合うことにしたのだが、いざ喋ってみると意外に物事をよく考えていて水が合う。そして明るいだけに見えた恵美が繊細な一面を秘めていることに気づいた私は、いつしかすっかり恵美に心を許すようになっていた。  今や私たちは、他の人には決して話せないような秘密も共有しあう互いにとって無二の存在だと思う。いや、思いたい。  私は恵美を信頼しきっていた。だから恵美が飲み会の日に私の部屋に泊まりたいと言ってきたときも、何一つ疑うことなく了承したのである。  ベッドは私が使うからなと塩対応したのに、あたし床でも寝れますから平気ですよと粘られたから、断るのが面倒になったというのもあった。 「先輩、おうち着きましたよ。鍵貸してください」 「ん……」  私はそれだけ言って、鍵が入ったスカートのポケットを指し示した。  愚かな私は気づかない。恵美が呆れきった溜息を小さくこぼしたことに。 「じゃあ、スカートに手ぇ入れますけど、いいんですね。――じっとしてて」 「ん……」  すっと入ってきた恵美の手がポケットの中をまさぐり、鍵のついたキーホルダーを取り出す。  彼女はスムーズな動作で鍵を開け、玄関のドアを開いた。  「それじゃお邪魔しますね、先輩。吐き気、大丈夫ですか?」 「あー……多少気持ち悪いけど吐きたいほどじゃない」 「なら良かったです。ベッドまでもう少しですから、あとちょっと頑張ってくださいね。あたしに体重預けて、ゆっくりでいいですから。電気のスイッチここですか?」  私の返事を待つまでもなく恵美は蛍光灯のスイッチを探し当て、部屋に灯りがともる。最低限の物しか置いていない、テレビさえない可愛げのないワンルーム。  恵美は私がベッドのところに歩いていくまで、肩を貸してくれた。自分の身体をベッドに投げ出し、私は少しだけ人心地がついた。外に出ること自体、私にとってはRPGのクエストくらい億劫な作業なのである。  恵美が私の顔を覗き込んで言う。 「お水とか飲みます? 先輩」 「そだね……冷蔵庫にゐろはすあるから、持ってきてもらっていい?」 「了解です」  差し出されたペットボトルを私は身を起こして受け取り、中身を喉に流し込む。冷えたミネラルウォーターがアルコールの不快感を少しだけ楽にしてくれたような気がした。  私はそこで力尽きて、再びベッドに身を投げ出す。  彼女はそんな私に近づいてきた――私のベッドに乗っかって、膝立ちでにじり寄ってくる。 「先輩、服脱がないと皺になっちゃいますよ」 「いーよ別に」 「そういうわけにはいかないでしょ。脱がせてあげますから、じっとしててくださいね」  私の返事を待たず、恵美のしなやかな指が私のシャツのボタンを次々と外していく。 「やっぱり……先輩、おっぱいでっかい……。アンダー70のGってところかな?」  恵美がなにか言ったような気がするけど、私は反応しなかった。とにかくだるかったからだ。  ちなみに胸の話をしてるのなら、私はアンダーバスト69cmのGカップだ。死ぬほどどうでもいいし、そもそも私は自分の胸が好きではない。胸なんて大きくてもデメリットばかりだ。 「次はスカート脱がしますね。腰上げてもらっていいですか?」  それは今の私にはちょっとした重労働だった。それでも私は、何とか少しだけ腰を浮かす。すると、あっという間にロングスカートが脱がされた。  身体を絞めつけていた衣服が無くなって楽になった――と思ったのも束の間。 「ストッキングも脱がしちゃいますね……」  ストッキングがするすると脚から抜き取られ、素足が外気に晒される。  恵美が私に覆いかぶさり、私の顔の両横に手をつく。  明らかに恵美の気配がいつもとは違う。異変に気付いた私の頭から、酔いの残滓が吹き飛んだ。 「何してるの、あんた」  恵美の表情は蛍光灯の影になってよく見えない。けれど口は笑みの形を浮かべているように見えた。 「そんなこと……乙女の口から言わせないでくださいよ」  からかうような――私にはそう聞こえた――恵美の声。酔いはどこかに吹っ飛び、私は急速に心が冷えていくのを感じていた。 「いいから言え」  そんな私の心情に気づいているのかいないのか――おそらく気づきながらスルーしているのだろうけど――恵美は余裕を崩さない。 「セ・ッ・ク・ス……に決まってるじゃないですか」 「酔った私を手籠めにしようってか? 見損なったぞ」  私の声は自分でも驚くくらい低かった。  けれど恵美は私の言葉にきょとんとしている。 「『てごめ』ってどういう意味ですか? 確かに先輩の芸術的なおっぱいを揉みしだき尽くすつもりまんまんですが」 「ひょっとして手ごねって言いたいのか? ――って分かっててボケてるよな!? 手・籠・め! レイプって意味だよ! 強姦! 強制性交等罪! 刑法177条!!」  こんなときにも法律用語が出てしまうのは法学部生の性サガというやつだろうか。  しかし恵美は私の剣幕もどこ吹く風といった面持ちで。 「刑法177条における性交の定義って膣内、口腔内もしくは肛門に陰茎を入れる行為ですよ。男性同士ならともかく女性同士では成立しないの、まさか知らないとは言いませんよね? 罪刑法定主義は我が国の刑法の根幹、入学して一番最初に教わる基礎中の基礎じゃないですか、先輩」  さすがはこんなチャラそうに見えるくせに我がゼミ随一の才媛と感心すべきところか、あるいは私の抗議を法学部ジョークでかわそうとする面の皮の厚さに唸るべきか。いやいや。 「そういう問題じゃないだろ! こんな無理やり、せ、セックスだなんて……」  頑なな私の態度に業を煮やしたのか、恵美はあからさまに嘆息してみせる。 「人聞きが悪いですね、先輩。そもそも今日、部屋に呼んでくださったのは先輩じゃないですか」 「え?」 「今夜飲み会のあと部屋に行っていいですか? って聞いたら『いーよ』って言ったの先輩ですよ」 「あー……そうだっけ」  口ではそう言いつつ、私は認めざるを得なかった。確かに私は言った、泊まっていいよと。それを切り出すのに妙にもじもじしていた恵美を不思議には思っていたけれど。 「そうですよ! あと、あたしが女の子好きなひとだっていうのも前から分かってたことじゃないですか」 「そう、だな」  それは恵美が私に打ち明けた、おそらく大学では私しか、もしかしたら恵美の家族さえ知らないかもしれない秘密中の秘密。 『気持ち悪くないですか?』と何度も訊いてきた恵美に、私は言ったのだ。そんなわけないだろ、恵美は恵美なんだから――と。 「それにあたしが先輩のこと好きなのも――気づいてましたよね?」 「まあ、あんだけあからさまだったらな……」  いくら私が空気の読めない非コミュだからといっても、それくらいはさすがに感づいていた。  なぜ私なんだろう? というのはさっぱり理解できなかったが。私が女性として魅力的だとは到底思えないから。 「自分に気があるレズ女を部屋に呼ぶって、どう考えても『セックスしよ♡』ってサインですよね?」  恵美が私に迫る。顔が近い。あ、なんかいい匂いする。これが女子力ってやつか……。  言葉こそ茶化しているけれど、恵美の態度は真剣そのものだ。その迫力に思わず流されそうになった私は必死に脳内で首を振って、反撃を試みた。 「いやいやいや、なんでそう飛躍する?」  私の言葉に、恵美はすっと息を吐いた。そして私の目をまっすぐに覗き込んで、こう続けた。 「じゃあ逆に聞きますけど、もし先輩のことを好きっぽい男が部屋まで送ってやるよって言ったら、先輩どう思いますか?」 「そりゃ家に上がり込まれてヤラれるだろうなって思うから全力で拒否る」 「ほら! やっぱりそうじゃないですか!」 「やっぱりって何だよ」 「好かれてるっぽいレズ女を部屋に上げるってことはセックスオッケーって思うのが当たり前じゃないですか! つまりこれは合意の上でのセックス! 100%和姦です!!」  そう、なのだろうか?  確かにもし恵美が男だったら、どんなに仲がいい友人だったとしても部屋に入れるのは躊躇っただろう。  ではなぜ恵美には気軽にオーケーと言ったのか? 決まっている。恵美が女だからだ。けれど恵美は、女性が好きな女の子なわけで。  そこでようやく私は、なぜ恵美が今夜私の部屋に来たいと切り出すときあれだけ言いづらそうにしていたのか理解した。  恵美は最初からそういうつもりで私に聞いたんだ。だから私にいいよと言われて、あんなに喜んだ。私が何も解ってないなんて、想像もしないで。  「確かにまあ……部屋に来ていいっていうのは軽率だったな。でもセックスは無理だよ……」  私は自分を直視する恵美の視線に耐えられず、顔を反らして言うのが精いっぱいだった。 「じゃあなんで、あたしを部屋に入れてくれたんですか?」 「それについては……恵美の気持ちをよく考えてなかった。ごめん」  私の愚かな言い訳に、恵美の雰囲気が変わったのが分かった。 「先輩は軽い気持ちで部屋来ていいよって言ったのかもしれないけど、あたしはめっちゃ本気だったんです!!」  私は恵美に見下ろされたまま、ひっと縮こまった。恵美がこんな大声を出すのは、私が知るかぎり初めてだった。 「いくらアプローチしても袖にされ続けて! やっと気持ちが通じたのかなってすごく嬉しかったのに! 今日なんて朝から心臓ドキドキしっぱなしで! なのにあっさり『そんなつもりじゃなかった』って! 浮かれてたあたしがバカみたいじゃないですかっ!!」  そう叫んで、恵美はうつむく。私の位置からは、彼女の表情がまるで見えない。 「そっか。そうだよな。私が悪かった。本当にごめん」 「ほんとに悪かったって思ってます……?」 「うん」  故意ではなかったとはいえ、深く考えずに言葉を投げかけ、恵美の心を傷つけたのは間違いない。 「悪かったって思うなら、させてください」 「それとこれとは話は別だよ……」  私はセックスをしたことがない。  身体つきだけは早熟だった私は、子どもの頃からそういう目で男たちから見られてきた。  無遠慮に嘗め回すようなそういう目つきが、私はただただ嫌いだった。今でもいつもロングスカートで野暮ったい、つまり身体の線が目立たない服ばかり着ているのはそのトラウマだったりする。  端的に言えば男が嫌いだったし、男全体への評価を覆してくれるような男性との出会いもなかった。かといって女性を好きになるということも、私のばあいはなかった。  処女であることにこだわりはまったくないけれど、恋愛感情を抱いていない相手とするのは何か違う気がする。  いや、もっとはっきり言おう。  要するに私は、怖いのだ。肌と肌を合わせる――つまり自分のすべてを相手に委ねることが。セックスってそういうことじゃないかと、私は思うのだ。  おそらく、無防備に自分をさらけ出してもいい、何をされてもいいと思えるほどの激情が恋というやつなのだろう。けれど私は恋を知らず、だからその壁を乗り越える勇気が持てない。 「……どうしてもダメですか?」  恵美の言葉に、私は答えられない。  しばらく無言の時間が続いただろうか。  恵美は私の上から離れ、乱れていた自分の服を直しながら、こう言い捨てた。 「分かりました。――ならあたし、帰ります。二度と先輩には近づきません。今までありがとうございました」  恵美のその声はぞっとするほど冷たく、私はあわてて彼女に問う。 「いやいやいや、なんでそうなる?」 「だってあたし、先輩にフラれたわけじゃないですか。フラれた相手と今までどおり仲良くできるほどメンタル強くないですよ、あたし」 「私が、恵美を振った……?」 「この状況でセックス拒否られるのって、フラれたと判断せざるをえないですよ」 「そんなつもりは……」  違う。私は恵美を拒絶したかったわけじゃない。  そんな身勝手な考えは、恵美の次の言葉で粉々に打ち砕かれた。 「じゃあ聞きますけど。先輩はあたしとこれからどうなりたかったんですか?」 「え?」 「まさかあたしにずっと自分に懐いてくるウザ可愛い後輩でいてほしかったりしましたか? ――ずっとこれを続けろって?」  恵美とどんな関係でいたいか。そんなこと、考えたこともなかった。今の関係が心地よかったからだ。  いつの間にか私は、今の関係が当たり前のものだと錯覚してしまっていた。ひととひとの関係に当たり前なんてあるわけがない――人間関係の経験値が低い私は、そんな自明なことが解っていなかった。  返す言葉が見つからない私に、恵美は寂しげな笑みを浮かべて続ける。 「もしそうだとしたら、そんなのは無理ですよ。あたしこう見えて、割と効率厨なんで。いつまでも脈のない恋を続けるような無駄な真似したくないし、できないです」  恵美の言葉に、私は自分が今までどれだけ残酷な想いを恵美にさせていたのか思い知る。  私には分からないけれど、ひとに恋するというのは多大なエネルギーが必要なものらしいから。報われない恋をずっと続けるなんて、そりゃ辛いに決まっているじゃないか。だから恵美が私から離れようと思うのは当然のことで。  ――だけど、私は。 「……なんですか、この手」  私は手を伸ばし、恵美の袖を掴んでいた。 「私は嫌だ。恵美を失いたくない」 「さっきあたし、言いましたよね。いつまでも仲良しごっこは続けられないって」 「それは理解した。ごめんな、恵美。――無理、させてたよな。今までさ」 「…………」 「私はさ、恋愛ってどういうものか分からない。でも、恵美のことは好きだ。誰よりも好き。恵美は私にとってただの親友じゃない。恵美がいないと――」  恵美と仲良くなるまで、私には友人らしい友人はいなかった。それでいいと思っていた。他人と関わるのが面倒だったし、なにかと群れたがる女子たちの心理がまるで分からなかった。  けれど恵美と触れ合ううち、私はひとと交わる楽しさを覚えてしまった。なにかについて語り合ったり、他愛もない冗談を交わしたり、一緒に出掛けたり。信頼できるひとが隣にいることのしあわせに気づいてしまったのだ。  おそらくそれは、私にとって禁断の果実だった。 「――恵美がいないと、辛いよ。生きていける気がしない」  私は、生きるのが面倒だとずっと思ってきた。積極的に死を選ぶほど追い詰められてはいないものの、何のために生きているのかさっぱり分からないでいた。楽しいことなんて何もなかったから。  けれど、恵美に出会って私は変わった。生きるのも悪くないなと思い始めたのだ。  その恵美に去られてしまったら、私はそのあと何を目的に生きればいいのだろう。生きていける気がしないというのは誇張でも何でもない。事実なのである。 「…………」  私は恐る恐る恵美の表情を伺う。  恵美の頬が赤くなっているような気がしたのは、私の都合のいい見方だろうか? 「……そんな子犬みたいな顔しても騙されませんからね。先輩の好きはあくまでもLikeであって、Loveじゃないでしょ?」 「今は恵美が望んでいるような気持ちじゃないかもしれない。でも私は恵美と一緒にいられなくなるのは嫌だよ。それだけは絶対に嫌。だから恵美を引き留めるためなら――なんでもする」  恵美は私の両肩をがっしり掴み、両股をまたぐように膝をついて、顔を覗き込んできた。 「なんでもする? へえー? 本当になんでもいいんですか?」 「女に二言はない。なんでもいいよ。セックスしたいっていうなら、する。恵美のこと、もっと真剣に考えるよ」  私はまだ恋が解らない。けれど、一歩踏み出す勇気ならもう私は持っている。  ギリギリまで追い詰められないと決断できないバカな女でごめんね、恵美。 「今までは真剣ではなかったと。それ自分で言っちゃいます? 勇者ですね先輩」 「だってそうだろ。恵美がどんな気持ちで私と一緒にいてくれるのかとか想像できてなかったわけだし。許してくれとは言わない。許してもらえるなんて思ってないから。だから私にはお願いすることしかできない」 「お願い、ですか。あたしに何を願うんです? 先輩は」 「私を捨てないで、恵美」  恵美は神妙な顔つきをしている。自分でも自分の感情が整理できていない――そんなふうにも見えた。 「先輩。自分が何言ってるのか、分かってます……?」 「恵美が欲しかった言葉じゃないのは分かってるよ。けど、実は恵美に恋してましたなんて上っ面だけ調子いいこと言っても意味ないだろ」  恵美の望みは、私が彼女の想いに応えることだ。今すぐそれができるなんて自信はない。自信がないことをできるなんて言うべきじゃないだろう。だから、今はこれが精いっぱい。 「――やっぱり全っっっ然分かってない。この天然タラシめ……」  聞き取れない声で何かをつぶやいた次の瞬間、恵美の手が私の両頬を包んだ。 「まあ、そうですね。『一応の水準』ってところですかね」 「何だよそれ」 「司法試験のアレですよ。最低限の回答には達してるって感じです」 「手厳しいな」  恵美は――私の希望的観測かもしれないが――少し笑っているように見えた。 「先輩だってあたしをさんざん振り回してきたんだから、おあいこですよ。それより先輩。分かってますよね。しますよ」  恵美の指が私のあごにかけられて、くいっと私の顔を上向きにさせる。その意味はいくら私だって分かる。 「確かにしてもいいとは言ったけど、いきなりするの?」 「いきなりじゃないですよ。あたしがどんだけ先輩とこうしたかったか、想像できます? もう一秒だって待てません」  恵美の目がギラギラ輝いている。鼻息も荒い気がする。正直に言って、まだ少し怖い。  でも恵美に求められるのは、もはや嫌ではなかった。 「分かった。私も覚悟を決める。でもキスするときってさ……眼鏡取らないの?」 「つけたままでいてください。あたし眼鏡萌えなんで」  恵美が何か分からない言葉を口にする。 「よく分からんけど、恵美の好みに合うのならよかった」 「先輩、さっきから何なんです? そういうドキドキする言葉、簡単に口にしないでくださいよ。もう黙っててください」  よく分からないけれど、黙れと言われたので私は口をつぐんだ。  恵美の顔がぐいぐい迫ってくる。見たことがないくらい真剣な顔に私は驚いたというか怖くなって目を閉じて――次の瞬間、私の唇がとても柔らかくてぷにぷにした何かに接触した。  キスされているんだ、と思った瞬間、別の弾力感のある何かが私の唇の合わせ目をなぞる。  え、いきなり舌挿れる? びっくりした私は思わず少しだけ口を開いてしまう。  彼女の舌はすかさず私の咥内に滑り込んできて、縮こまっていた私の舌を絡めとる。私はなすすべもなく、彼女に舌も歯も、口の中ぜんぶを蹂躙された。  けれど不快感は欠片もなくて。認めざるをえない。これ、すごく気持ちいい。  こいつなんでこんな慣れてるんだと考える間もなく、彼女の唇が私の首筋をなぞり、強く吸った。そのまま首のあちこちを、肩口をきつく吸われる。  これ跡残るよなあ、明日どうやって隠そう――ぼんやりとそんなことを思っていた私の両脚の合わせ目に、下着の脇を縫って、それは直接触れてきた。恵美の指だと理解するのに数瞬かかった。 「麻莉也ちゃん、すっごい濡れてる」  恵美に指摘され、私は頭が真っ白になった。頬が火傷でもしたかのように熱く燃えている。 「キス、気持ちよかったですか?」 「うん……」 「素直な麻莉也まりやちゃん、可愛いですよ。もっと気持ちよくしてあげますからね――」  恵美はもう一度私にキスを落として、私はそこで考えるのを止めた。  それからたった2週間後、改めて好きだと言ってきた恵美に私はあっさり陥落することになるのだが――それは別の話。 「ってゆーかさ、なんで私なわけ? いまだに分からんのだが」 「麻莉也ちゃんのどこが好きになったかって話ですか? いくらでも挙げられますけど、聞きます?」 「あ、いや、全部はいいけど……強いて言えば?」 「おっぱい大きくて脚長くて腰めっちゃ細いところですかね」 「身体かよ! 不純だな!」 「あたしは女に欲情するひとですよ? 目の前に極上の女の子がいたら食いつくのは当たり前じゃないですか。あと顔がいい。いつもその野暮ったい眼鏡で隠してますけど、麻莉也ちゃん普通に美人ですよね? まつげめっちゃ長いし」 「見た目ばっかだ! つか野暮ったいって思ってるなら言えよ!」 「あたしの好みで眼鏡選んじゃうと麻莉也ちゃんが綺麗なのバレるから、余計な虫を近づけたくないあたしとしては今のままのほうがいいカモフラージュになるというか、あたしだけが麻莉也ちゃんの素顔を知ってる優越感が捨てがたくてですね。とはいえあたし好みの眼鏡をかけた麻莉也ちゃんもめっちゃ見たいので、現在熟考中ってところです」 「めんどくさ……。まあ私は恵美がいいなら何でもいいけどさ。――で?」 「『で?』とは」 「分かってるくせに私に言わせるのか!? やっぱり鬼畜だな恵美は! 恵美は私の外見しか興味ないのかって聞いてるんだよ!」 「やだなあ人聞きの悪い。もちろん内面も好きですってば、ま・り・やちゃん♡ 孤高を気取ってるけど実は寂しがり屋なところとか萌えポイントですし、気を許した相手にはめっちゃ懐いてくるところとか子犬みたいで最高に可愛いですよね」 「褒められてる気がしない……」 「めっちゃ褒めてるんですけどね。じゃあ、そうだなあ。麻莉也ちゃんのことを意識しだしたきっかけなんですけど」 「……ほお」 「あたしたち3年生がゼミに入ったときの歓迎会、覚えてます?」 「恵美がみんなからちやほやされまくってたのは覚えてる。人心掌握力やべえって思った」 「それ褒めてないよね、麻莉也ちゃん。じゃあ、あたしが麻莉也ちゃんのところ行ってよろしくお願いします、って挨拶したときのことは覚えてる?」 「ごめん、覚えてないかも」 「麻莉也ちゃん、石ころ眺めてるみたいに無関心な目で一瞬だけあたしを見て、『よろしく』ってボソッと一言だけ言って、それからずっと横向いてて、それっきりあたしを見なかった。飲み会の最後まで」 「私そんなことしたっけか?」 「しーまーしーた」 「そっか……。それはすまんかった……」 「いえいえ別に、お気になさらず。麻莉也ちゃんらしい微笑ましいエピソードじゃないですか」 「私らしいって言われるのも複雑だな……。でも初対面でそれって好感度下がらんか、普通?」 「んー。自分で言うのも何なんですけど、あたしって大抵のひとに好かれるじゃないですか、初見から。だからあんな冷たい眼で見られるの初めてで――ゾクゾクしたんです。そして思ったわけですよ。あたしがもっと絡んでいったら、このひとどんな反応してくれるんだろうって」 「へええ…………」 「いいですよ別に、重いとか面倒くさいとか闇が深いとかはっきり言ってもらって。――引きました?」 「バカ。今さらそんなことあるわけないだろ。むしろ私は恵美のそういうなんつーか……奥深いところに惹かれたわけだし。恵美が明るいだけの女だったら、こんなに好きになってないよ」 「なっ、そういう不意打ち止めてもらえます麻莉也ちゃん!?」 「え、私なんか変なこと言ったか?」 「そういうところ! そういうところですよ! 麻莉也ちゃん!! あたしだからいいですけど、あたし以外のひとには不用意なこと言わないでくださいよ……!」 「よく分からんけど分かった。恵美以外の人間に好きとか言わないよ。興味ないし」 「だったらいいんですけど……そこんとこほんとよろしくお願いしますよ……」 「ところでさっきの話だけど」 「さっきの話?」 「恵美って……Мなひとだったりするの?」 「なんでそんなこと訊くんです?」 「あ、いや、意外だなと思って……怒った?」 「いえいえ、麻莉也ちゃんがあたしに興味持ってくれるのは良い傾向なので、むしろウェルカムですよ。そうですね、どっちかって言ったらそうかもしれませんね。えっちはいつもあたしが攻めですけど、麻莉也ちゃんにぐちゃぐちゃにされたいって気持ちもありますし」 「……そうなんだ。努力する……」 「期待してますね。ところで麻莉也ちゃん?」 「なに」 「あたしにこれだけ麻莉也ちゃんの好きなところ話させたんだから、当然麻莉也ちゃんも、あたしの好きなところ――教えてくれるんですよね?」 「う……」 –あとがき– この作品はこれにて完結です。 読んでくれた方有難う御座います!(´▽`) 他作品も読んで貰えると励みになりますので、よろしくです。
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