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食事をトレイに乗せて、母のベッドまで持っていく。身体を起こして座らせた母が、思うように動かないはずの手で、私の手を掴んだ。
「お母さん、どうしたの?」
私の手を見つめたかと思うと、コップに入ったお茶を、私の手にかけた。
「お母さん、何するの!」
布団も服も濡れてしまった。急いでタオルで拭う。拭いながら、私は涙が出た。
どうして、こんな酷いことをするの。
私は、お母さんのために、一生懸命に頑張っているのに。
何が気に入らないの。
こんなになるまでお母さんをほったらかしてしまった私のことが、やっぱり憎いの?
涙を零すまい、弱い姿を見せるまいと必死に堪える。母はそんな私の頭を、覚束ない手付きで撫でた。
驚いて見上げると、あの頃と変わらない目を私に向ける母がいた。濡れたタオルを握って、私の指ーーさっき火傷をした所に当ててくる。
「……お母さん」
今度は、堪えることができなかった。
とめどなく流れる涙が、拭いたばかりの布団にぼろぼろ落ちていった。
そっか。そういうことだったんだね。
ようやく、答えが分かったよ、お母さん……。
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