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その全てを話す前に、まずは僕の気持ちについて語る事にしよう。
僕は彼女のことが大好きだ。
彼女がどんなに素っ気なくても、僕のことを愛してなどいなくても、僕は、彼女を愛している。
だから僕は、僕の人生の全てをかけて、彼女のことを追いかけるのだ。
僕の生きる意味が、彼女を追いかける事だと言ってもいい。
彼女はいつも優雅に1日を過ごし、僕はそんな彼女を、追い続けて1日を終える。
もしかするとその様子は、僕の一方的な執着に見えるかもしれない。
けれど何度も述べた通り、僕が彼女を追いかけること、それこそが、僕と彼女の運命なのだ。
さて。
そろそろここで、後回しにしていた奇妙なルールへ話を戻そう。
それは、僕と彼女の日々のルール。
・1日の生活の中で、僕が彼女に触れていいのは22回。
・1度の接触は数秒のみで、またすぐに離れなくてはいけない。
このルールを決めたのは彼女ではないし、そしてもちろん僕でもなかった。では、誰が僕らの生活に、こんな奇妙なルールを課したのか。
まずはこのルールの始まりを、一緒に紐解くことにしよう。途方もないほど過去の話になるけれど、驚かないで聞いてほしい。
そのルールの基盤となるものは、紀元前4千年前に生まれた。
教科書、あるいは何かの資料で目にした事があるのではないだろうか。
地面に垂直に立てた棒に太陽の光があたり、そうしてできた影の長さや角度から、人は『時間という概念』を知った。
それが人類最古の時計で、名を日時計と呼ぶ。
ここまで話せば、僕が何者で、また彼女が何者であるのか。もう、お分かり頂けただろう。
そして僕が語った。僕にとって彼女が運命の人であり、彼女にとっても僕が、運命の人だと言う言葉が間違いでは無かったと分かってもらえるはずだ。
そう。僕らは、アナログ時計。
人は僕を長針といい、彼女の事を短針と呼ぶ。
1日の中で、僕が彼女とピタリと重なるのは22回。全ての時間帯ではなく、朝と夜の11時台のみ、僕らは重ならない。
1日、24時間。
彼女がぐるりと2周する間に、僕は必死に彼女を追いかけ、24周してようやく彼女と同じ時の長さを刻む。
そんな彼女の優雅な歩みを、僕は日々、せかせかと慌ただしく追いかけ続けている。
これが、僕と彼女の運命であり、僕たちアナログ時計の日常なのだ。
『僕らが生まれ、人類は時間という概念の囚われの身となった』
人が時計を作り、そして皮肉にも、時間に追われる日々が始まる。
これは、僕と彼女の運命の話だ。
いや、今もそこで時間を気にしている……。
時計に操られた。
あなたの、日常の話だ。
〈了〉
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