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「それで優しい子が雨宿りさせてくれたんだ」
夕飯の席で僕は今日の出来事を話す。「魔法」のことは何となく黙っておいた。まず信じてもらえないだろうし、人に話してはいけない気がしたからだ。
「へえ、そんないい子がいたの。しかもうちの近くに!」
「おかしいな。あの辺りってつい最近まで空き地じゃなかったか?」
「空き家じゃなかった?」
お母さんとお父さんが顔を見合わせて首をひねった。
「いつの間にか買い手がついたんだなー。学校で会うのが楽しみじゃないか!」
お父さんの言葉に僕は大きく頷いた。
「うん!」
「お兄ちゃん、その子のこと好きになったんでしょう?」
隣に座る小学2年生の妹、優陽がニヤニヤしながら言う。僕よりも年下だというのに、妙に大人びてるから困る。
「え?」
ドキッとした。確かに藤咲さんはかわいいし良い子だし……助けてもらった恩もある。出会ったばかりですぐに人を好きになってしまうほど僕は軽い男じゃないぞ!
そう思われないためにわざと否定する。
「助けてもらって感謝してるよ。いい子だとも思う。でも、それで好きになるなんて単純すぎるでしょ!」
「だって単純じゃん」
優陽にずばりと言われて僕はうなだれた。お父さんとお母さんまで「どうなんだよ?」と笑顔を浮かべながら聞いてくるので、居心地悪くなった僕は食器を持って立ち上がる。
「ごちそうさま!」
自分の部屋に逃げると、大きなため息を吐いた。優陽にからかわれて後から恥ずかしさが込み上げてくる。誰も見てやしないのに、机に突っ伏していると、何かが僕の頭に当たった。
柔らかい何かだ。それも何度もポカポカと僕の頭に当たってくるのだ。
「もう。何だよ……」
思わずひとりごとを言いながら顔を上げて、驚いた。
僕の頭にタックルを入れていたのは……僕が初めて作った作品、羊毛フェルトのひよこだったのだ!
「うわっ!」
突然のことに椅子から転げ落ちる。
僕の作った作品が動いてるのだ!まるで性格の悪い猫のマスコット、ノアのように。机の上で小さな翼を動かして飛ぼうと試みるのだが、翼があまりにも小さすぎて飛ぶことができないでいた。
僕は笑いながらひよこを掌に載せる。
「やっぱり。藤咲さんは魔法使いなんだ!」
その時僕は確信した。間違いなく藤咲さんは魔法使いなのだ。そして、そんな藤咲のことをカッコいいとも思った。
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