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暗い部屋に電話で話す声がする。間接照明が男の顔を下から照らしていた。アカツキ製薬副社長、赤月隆二だ。
「知事につないでくれ!」
隆二は電話で怒鳴った。
「立ち入り検査なんて、今まで問題なし、だっただろう! 国の方針が変わった? ウチに断りもなく? 業務停止命令? そんなもの国内で出たことないぞ!」
隆二が静かになった。
「不良品を材料に戻したり、届出した工程を変えて、何が悪い? 合理化だよ、コストダウンだ。できた製品の品質検査は全部合格しているし、健康被害が出たこともない!」
また黙って、相手の話を聞く。
「法律だ、ルールだ、役人は頭が固い。それを何とかするのが、あんたら政治家の仕事だろうが! え、もう電話してこないでくれ? アカツキ側と見られたくない? あんた、今までウチがどれだけ協力してきたか忘れたのか! え、何だって?」
隆二は怒鳴り、呆然と受話器を下ろした。
「『先代は、そんな風にうろたえることはなかったのに』、か」
隆二は大きく息を吐いた。先代、父・赤月隆一郎なら、このピンチをどう切り抜けるのか――
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