1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

 暗い部屋に電話で話す声がする。間接照明が男の顔を下から照らしていた。アカツキ製薬副社長、赤月隆二だ。 「知事につないでくれ!」  隆二は電話で怒鳴った。 「立ち入り検査なんて、今まで問題なし、だっただろう! 国の方針が変わった? ウチに断りもなく? 業務停止命令? そんなもの国内で出たことないぞ!」  隆二が静かになった。 「不良品を材料に戻したり、届出した工程を変えて、何が悪い? 合理化だよ、コストダウンだ。できた製品の品質検査は全部合格しているし、健康被害が出たこともない!」  また黙って、相手の話を聞く。 「法律だ、ルールだ、役人は頭が固い。それを何とかするのが、あんたら政治家の仕事だろうが! え、もう電話してこないでくれ? アカツキ側と見られたくない? あんた、今までウチがどれだけ協力してきたか忘れたのか! え、何だって?」  隆二は怒鳴り、呆然と受話器を下ろした。 「『先代は、そんな風にうろたえることはなかったのに』、か」  隆二は大きく息を吐いた。先代、父・赤月隆一郎なら、このピンチをどう切り抜けるのか――
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!