10人が本棚に入れています
本棚に追加
1
俺の親父はバスケットボール選手だ。
その影響で、俺は物心ついた時からあの硬くて大きなボールに弄ばれていた。
もちろんクラブチームにも入っていて、小学生の頃は、同級生やその保護者からも、俺、杉山 晴=バスケットボールという認識をされていた。
だが、それを一変させてしまう出来事があった。
あれは小4の夏のこと…
俺は、母親とその友達の付き合いで、札幌ドームで行われるプロ野球の試合観戦へ行くことになった。
札幌ドームには、親父のトレーニングにくっついて行っては球場内が一望できる遊具コーナーで遊んでいたため、そこそこ馴染みがあった。
でも、野球の観戦は初めてで、俺にとってそれは非日常で、観客で埋め尽くされた熱気ある場内に興奮した。
日常の中にあったバスケットボールの試合観戦とはまた違う特別な何かがそこにはあった。
そして、この日、俺はあの人に魅せられてしまった。
今やメジャーリーグで活躍している日本の宝、WBCでも大活躍だった二刀流のあの選手だ。
その日は投手として登板がなかったのは残念だったが、指名打者として活躍していた。彼は打つだけでなく、足も速い。ふつうのファーストゴロを内野安打にしてしまうし、積極的に盗塁もする。
野球に興味がなかった俺でも、誰もが目を引くスター選手だということがわかった。
そして3対2でリードを許して迎えた9回裏の攻撃。ランナーを一塁に置いて、ツーアウト、ツーストライクの追い込まれた場面。
観客の誰もが固唾を飲んで試合の行く末を見守る中、彼は期待通り、特大アーチのサヨナラホームランを放ったのだ。
彼の活躍は、10歳の少年の心をわしづかみにして離さなかった。
最初のコメントを投稿しよう!