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 俺の親父はバスケットボール選手だ。  その影響で、俺は物心ついた時からあの硬くて大きなボール弄ばれていた。  もちろんクラブチームにも入っていて、小学生の頃は、同級生やその保護者からも、俺、杉山 晴(すぎやま はる)=バスケットボールという認識をされていた。  だが、それを一変させてしまう出来事があった。  あれは小4の夏のこと… 俺は、母親とその友達の付き合いで、札幌ドームで行われるプロ野球の試合観戦へ行くことになった。  札幌ドームには、親父のトレーニングにくっついて行っては球場内が一望できる遊具コーナーで遊んでいたため、そこそこ馴染みがあった。  でも、野球の観戦は初めてで、俺にとってそれは非日常で、観客で埋め尽くされた熱気ある場内に興奮した。  日常の中にあったバスケットボールの試合観戦とはまた違う特別な何かがそこにはあった。  そして、この日、俺はに魅せられてしまった。 今やメジャーリーグで活躍している日本の宝、WBCでも大活躍だった二刀流の選手だ。  その日は投手として登板がなかったのは残念だったが、指名打者として活躍していた。彼は打つだけでなく、足も速い。ふつうのファーストゴロを内野安打にしてしまうし、積極的に盗塁もする。  野球に興味がなかった俺でも、誰もが目を引くスター選手だということがわかった。  そして3対2でリードを許して迎えた9回裏の攻撃。ランナーを一塁に置いて、ツーアウト、ツーストライクの追い込まれた場面。  観客の誰もが固唾を飲んで試合の行く末を見守る中、彼は期待通り、特大アーチのサヨナラホームランを放ったのだ。  彼の活躍は、10歳の少年の心をわしづかみにして離さなかった。
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