びぼうろくをなくす

マックさんの名言

　大学の友人にマックさんという人がいる。あだ名である。その由来は名前からなのだが、僕が『ハンバーガーをたくさん食べたから』という嘘をつくと大抵の人が信じる。そのくらい食べそうな見た目をしているし、事実食べる。
　ある時、彼に「不健康にしてるとすぐ死ぬぞ」と言ってからかった事がある。じきに肉など食べれなくなっちまうぞ、などと言った。彼の健康を慮った訳ではない。本当に、何の気なしにつっかかった。
　彼の返答はこうである。
「だから今食ってんだよ」
　目から鱗が落ちるとはこの事だろう。健康長寿が叫ばれる昨今、彼は今を愉しむ選択をしていた。良い答えだと思う。そうでもないだろうか？おかしいな、とても感動したんだけれど。
　僕は『健康』を最上とする世に毒され、すっかり思考を止めてしまっていたのだ。流されてしまっていた、それでよいとしていまっていた。
　彼は世に流されない『自分の意見』を持っていた。僕は、中年と呼ばれる年齢になっても未だに『自分』が薄弱である。
　もちろん、健康を気遣い節制する事は良い事である。問題はその意見に『自分』というものが入っているかどうかだ。目標も何もなく、ただ世の意見に唯々諾々と従い、思考停止していた自分を恥じたのだ。
　和して同ぜず。いたずらに他者を貶めない程度の『自分』を、せめて持ちたいものである。