令和の悪女、松田佐那の述懐

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 持っていたトートバッグからノコギリ包丁を取り出しました。ああ、刑事さん、話を止めないで下さい。ええ、ええ、分かっています。殺そうと思った理由ですよね。はい、言いたいことは分かっています。  死んだら女からだけではなく、私からも離れて行ってしまうだろうと言いたいのでしょう。それに、ノコギリ包丁をどうして持っていたのかという話ですよね。分かっています。刑事さんが疑問に思うのはもっともです。  でも正直、今まで述べてきた思考回路は殺害直後に分析したものです。殺した後の気が動転していた時に考え出したものです。実際はこうではないのです。  はい。なぜ、そんなことを今喋ったのかですよね。最初っから、よおく考え抜いた心情を語れば良いことは分かっています。だが、さっき述べた感情を下敷きにして話をしないと、正確に伝わらないのです。  長い話で申し訳ないですが、もうしばらく聞いていただければ幸いです。どこまで話しましたっけ。ああ、そうだ。私がノコギリ包丁を取り出したところですよね。  さっき言ったように女から夫を切り離すために包丁で彼の腹や胸、喉を滅多切りにして殺害しました。  階段で立って喋っていたので、夫の骸は階段下の灰色のコンクリートの地面に落ちて行きました。返り血を浴びた私は、同じく血で染まった女に凝視されていました。  驚きによって硬化した女を無視して、階下に降りて行きました。凶器で彼の頬の肉を薄く削いで口に含みました。女から奪い返した 勝利の味は可愛いけど、少し臭かったです。  すみません、少し喋り疲れたので一息吐かせて下さい。  ありがとうございます。では、ここから深く考えて到った心情について述べたいと思います。私は留置所に置かれてから多くを考える時間を得ました。留置所では仕事とかしなくて良いんですね。それは初めて知りました。あっ、どうでも良い話でしたね。さて、本題に入りますか。
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