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どうやら聞いた話によると、私が行った行為を愛ゆえのものだと考えている人が世間には多いみたいですね。愛する旦那を殺して彼の肉を自分の肉体を作るタンパク質として摂取したと。
面白い発想を考えますね。きっと疫病のせいで、最近夫婦間の仲が悪くなった家庭が多いのでしょう。自分たちの生活に希望を見出せないから、私の殺害に希望を見出し、殺人すらも愛情が苛烈した結果と見做しているのでしょう。
この推理は当たってますかね、刑事さん。黙っちゃって。きっと遠からずというところでしょう。それなら、私の推理に多少正確さを認めてくれるでしょうね。
世間の人々の人口に膾炙している説は、全くの間違いというわけではございません。夫への愛情は、熟慮しても変わらず存在するものでした。
では、何がさっきの話と異なるのかと言うと殺害の動機ですね。夫を女と切り離して、私だけのものにする魂胆があったと話しました。それは世間で言われている、肉体の一部にするため説と似ていますね。だが本当のところは違うのでございますよ。
実は旦那への想いよりも、目の前にいた女に対する憎悪の方が激しかったのでした。そのことに気付いた時、私は自己嫌悪に陥りました。
ついさっきまで、女への負の感情よりも旦那への愛が勝っていたと思っていたのに、冷静になればなるほど女への敵意が膨れ上がって、旦那の死に顔すらも忘れさせるほどなのです。
この状態から夫を殺害した本当の目的は、彼女に恐怖を与えることだったのではないかと考えました。では、なぜ彼女自身を殺さなかったのか。なぜなのでしょう。そこに関しては私にはハッキリとした理由が見付かっていないのです。
だが、ぼんやりと思うのは私が加害者になって女が被害者になるといった関係すらも持ちたくなかったからではないでしょうか。そこまで女と関わり合いになりたくなかったのです。
彼女に恐怖心を与えるために旦那を殺したという現実になります。彼女に対して勝利感を覚えたかったのです。彼女は私がまさか殺害まで犯すとは考えていなかったでしょう。
その瞬間に彼女の思考を裏切る形で、私が彼女との力関係で逆転したのです。私を捨てて彼女のところに夫は行ったので、それまでは私の負けでしたが、殺害によって私が女を茫然とさせて勝つことになったのです。
感じた勝利感は女から旦那を奪い返したことで得たのではないのです。女を圧倒したことによる快感でしかないのです。
それでは次は何で頬の肉を削いで食べたか、ですよね。刑事さん、急かさないで。今からしっかり話しますから。何も隠しませんから。
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