白馬の騎士には程遠い

　由奈さんは「デート中だよ」の一言とともに、どこかのカフェで撮ったと思われる、ウサギのラテアートを施したカフェラテの写真を投稿していた。
　彼氏もしくは彼氏候補が出来たのなら、俺にとっても良いことだ。漫然とその写真を眺めていると、俺はあることに気付いた。カップの向こうにある相手のものだと思われるスマホケース――マゼンタのベースに白い線でトイプードルのシンプルなイラストを描いたケースが、柊さんが使っているものと同じだったのだ。
　由奈さんのデート相手が、偶然、柊さんと同じケースを使っているということだろうか。
　……いや、違うな。単に、俺がそう思いたいだけだ。

　柊さんが、女性を購買層にしたであろうこのスマホケースを愛用しているのには理由がある。イラストのトイプーが、柊さんの愛犬・チャオ（アプリコットのトイプーで三歳のオス）に似ているからだ。「ぽや～っとしたところが、うちのチャオに激似なんだよ～！」と絶賛していた。正直、俺はこの五秒で描いたような雑なトイプーイラストとチャオが結び付かないのだが……いや、柊さんが言うことは全て肯定する所存だ。
　特筆すべきは、この鮮やかすぎるボディカラーだろう。赤でもピンクでもない、強烈でどこか安っぽい色、マゼンタ。柊さんは、「これ、チャオがお気に入りのボールの色なんだよね～」という単純な理由でこのカラーを選んだのだが、遊び心を通り越して悪意を感じる一品だ。柊さんの私服はお洒落なのに、愛犬が絡むとセンスがグダグダになるらしい。
　何が言いたいかというと、この斬新なスマホケースを使っている人間は滅多にいないということだ。由奈さんのデートの相手は、柊さんである可能性が高い。